研究課題/領域番号 |
16K13874
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三部 賢治 東京大学, 地震研究所, 助教 (10372426)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高温高圧 / 超臨界流体 / 弾性波速度 / ダイヤモンドアンビル / マグマ / 水 / 地震波速度 |
研究実績の概要 |
日本列島などのプレートが沈み込む領域では,沈み込む海洋地殻から放出される水を主成分とする超臨界流体が,マグマの生成や地震の発生に重要な役割を担っていると考えられている.沈み込み帯深部を地震波で観測すると,マグマや流体の存在が示唆されてはいるが,地球内部の超臨界流体の正確な弾性波速度は実験的に決められていないため,現状では観測データを定量的に解釈するに至っていない.本研究では,超音波法による弾性波速度測定技術を外熱式のダイヤモンドアンビルセル内のサンプルに適用する新手法を開発し,地球内部の超臨界流体の弾性波速度を高温高圧状態下で測定することを目的としている. 今年度はまず最初に,弾性波速度測定に必要な測定装置を購入し,測定システムのセットアップを行った.信号発生器から発生した電気信号は,圧電素子により電気信号から超音波へと変換される.このとき圧電素子に印加する電気信号の周波数を適切に変えることにより,P 波とS 波を両方同時に作ることが可能である.発生した弾性波はサンプル内を通過し,サンプル下面で反射する.反射した弾性波は再びサンプル上面から圧電素子へと振動を伝え,この圧電素子で電気信号へと再度変換される.この電気信号は微弱であるため,信号増幅器などを介してS/N比を上げたのち,適切な周波数を読み取るオシロスコープで観測する.得られた波形を解析することにより,サンプル内を通過するP波とS波のトラベルタイムが決まる. 測定システムを完成させたのち,実際に高温高圧サンプルからの弾性波信号を得る試験を行った.今年度はまずマルチアンビル高温高圧装置内にサーペンティンを入れ,高温高圧下で脱水分解する前後でP波とS波がどの様に変化するかを調べる実験を行った.実際に十分に解析可能な強度の信号が得られ,サーペンティンの脱水の前後でポアソン比が変化する様子を観測することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
測定システムのセットアップ及び,実際の高温高圧下でのサンプルからの信号を得ることを今年度のメインの目標としていたため,当初の予定通り進んでいるといえよう.サンプルの加熱には比較的大きな交流電源を用いているため,サンプルからの信号に対してS/N比が悪くなることが心配されたが,特に問題無く十分な強度のきれいな信号が得られている.
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今後の研究の推進方策 |
初年度までにセットアップした測定機器を用い,実際に外熱式ダイヤモンドアンビル装置内のサンプルを通った弾性波の測定をこころみる.ここではダイヤモンドアンビル装置にどの様に圧電素子を取り付けるか,試行錯誤をしながら弾性波信号を確認していく. 十分な信号が得られたら,本格的に高温高圧下でケイ酸塩成分を溶解した地球内部の超臨界流体サンプルの弾性波速度測定を行う.目的の化学組成をもつガラスを前もって合成し,H2Oとともにダイヤモンドアンビルセル内に封入する.高温高圧状態にすると均質な1相の超臨界流体が得られるので,その弾性波速度を測定する.超臨界状態の均質な1相の流体での測定では,流体サンプル中を通過するP波のみの測定となる.それらの実験がうまく行ったならば,次に固体サーペンティンなどの含水鉱物サンプルをダイヤモンドアンビルセル内に入れ,高圧下で温度を上げていき,脱水分解反応が起こる前後での弾性波速度の変化を観測することに挑戦する.ここでは固体・流体の複合物サンプルであるため,P波・S波ともに速度を決定することができるかもしれない. 最後に,得られたデータを観測による地震波データと比較検討し,沈み込み帯周辺での流体の分布について少しでも明らかにしていきたい.
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