沈み込み帯等の揮発性物質が多い領域での地震波速度データを定量的に解釈する目的のため,高温高圧下での揮発性成分を主成分とするフルイドや揮発性物質を含むメルトの弾性波速度を測定する手法開発を行っている.この目的のため,主に2つのアプローチを用いる.1つ目は,外熱式のダイヤモンドアンビルセル内の流体サンプルについて超音波法により測定することであり,2つ目は放射光を用いてサンプル長を測定しながらパリ・エジンバラタイプの高温高圧装置中の流体サンプルについて超音波法により測定するものである. 今年度は主に,2番目の放射光を用いた実験を行った.現在のところ,高温高圧下で流体100%からなるサンプルの弾性波測定は実験的困難のために行われていない.まず始めに実験を行いやすい,比較的低温かつ高圧下での手法開発を行った.メルトサンプルを周囲にもらさずに,また,周囲を囲むカプセル的な役割の部分との化学反応が起こらないように工夫をこらして開発を行い,アルカリに富む炭酸塩メルトについて高温高圧下での弾性波速度の測定に成功した.この手法を用いて,炭酸塩メルトの弾性波速度の温度・圧力・化学組成依存性を決定した. 実際の地球の大陸地域の観測では,大陸リソスフェアの中間付近の深度に地震波速度の低速度領域が観察されており,この領域はリソスフェア中部深度不連続面(mid-lithosphere discontinuity=MLD)と呼ばれている.今回のわれわれの実験結果と大陸下の地震波速度データを比較することにより,世界中の大陸下のMLDにはひろくアルカリに富む炭酸塩メルトが分布している可能性があることが明らかになった.
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