海面における水蒸気供給のモデル化として、通常は風が吹いた地点で水蒸気が供給されるバルク法が採用されている。しかし、現実の多湿な台風状況下では、水滴の蒸発には数十秒~数分間かかるため、中心へ吹き込む流れに波しぶきが数キロほど運ばれながら、徐々に大気を湿らせていくと考えられる。そこで、この波しぶきの移流という物理過程が台風強度や急発達に対して、どれだけ影響があるのかを数値実験により調べた。
最終年度である平成29年度は、初年度に構築した波しぶきの蒸発時間スケールの表を数値モデルに適用し、波しぶきの速度が風速と異なるという想定の数値実験、波しぶきからの水蒸気供給の割合を変化させた数値実験、蒸発の時間スケールが長くなるとする数値実験を実施した。また、結果の信頼性を高めるため、すべての実験を初期条件を少しずつかえたアンサンブル実験とした。
実験の結果、一般的な台風の強度に対しては波しぶきの水平移流の影響は無視できる程度であるものの、中心気圧が940hPaを切るような非常に強い台風に対しては、この波しぶきの移流により中心気圧が最大で10hPa程度低下し、発達率も大きくなることがわかった。また、波しぶきの割合が多い場合や蒸発の時間スケールが長い場合には影響が大きかった。これらの結果について、33rd Conference on Hurricanes and Tropical MeteorologyやInternational Conference on Mesoscale Convective System and High Impact Weather、日本気象学会などの主要な学会で口頭発表を行った。
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