研究課題/領域番号 |
16K13888
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
堤 雅基 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (80280535)
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研究分担者 |
野澤 悟徳 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (60212130)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中間圏界面温度観測 / 流星エコー / 分子拡散 |
研究実績の概要 |
トロムソ流星レーダーを用いて、北極域の流星レーダーで観測される上部中間圏から下部熱圏域の両極性拡散係数(Da)が冬期を中心に異常増大を示すことを初めて見出し、その理由について各種観測データと比較し、理論的な検証を行った。 同時観測された中性大気温度(ナトリウムライダー)との比較から、中性温度には顕著な増大現象はみられず、プラズマの状態に変化が生じていることが示された。さらに電子・イオン温度観測およびイオン速度(EISCATレーダー)のデータと比較した結果、電子温度増大がDaの異常増大の主要因と推察された。 下部熱圏における電子温度増大は、Buchert et al.[2008]の報告にもあるように、電離圏電場の影響によるFarley-Buneman不安定電子加熱[Farley, 1963; Dimant and Sudan, 1995]が原因と考えられる。電場とDaおよび電子温度の間の定量的な関係について観測結果をもとにさらに調べており、流星レーダーを用いた中間圏・下部熱圏の電子温度推定手法実現について検討中である。電離層観測専用レーダーであるISレーダーでも難しい中間圏領域の電子温度測定の手法として確立できれば画期的な成果となる。また、電離圏から中間圏に至る上層から下層への大気上下結合の研究の新しい手法にもなりうる。 得られた結果は2件の国内研究集会の講演(招待講演含む)において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに他の同時観測データとの比較や理論的な検証も進め、国際学会などで発表を行ったため、区分(2)とする。国内研究集会では招待講演として成果発表を行った。共同研究者とも議論を進め、初期成果の論文執筆の準備が整った状態にある。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、昨年度の初期的な成果をまとめて英文国際学術誌のレター誌に投稿する。さらに、電子温度観測手法としての確立のため、ISレーダーおよび光学観測データとの比較も進める。水平方向に広く空間領域をカバーできる流星レーダーの特長を生かし、近隣の北欧諸国で流星レーダー観測を行っている研究者に呼びかけ、中間圏電子温度観測ネットワークの形成を目指す。9月に予定されている中間圏界面領域の国際会議 Layered Phenomena in the Mesopause Region (ドイツ)に出席して議論を進める。今後の発展が見込まれているEISCAT_3D計画と連携した研究に向けて、大きなステップになると期待される。 また、本研究の大きな柱の一つである非擾乱時における中性大気温度観測手法の確立も、ナトリウム温度ライダーとの比較を通してさらに進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に2つの理由による。 本研究内容に関連した議論を、2017年度前半に米国の研究者と行うこととなり、その日本招聘経費の捻出のため本科研費の一部を繰り越すこととなった。 ドイツのLeibniz-Institute of Atmospheric Physicsにおいて、中間圏界面領域の物理に関する国際研究集会が開催されることが年度末に決まり、その参加経費を賄うために、本研究費の一部を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
米国の研究者(コロラド大学のChu教授)を5月に招聘し、極域の中間圏温度観測に関する議論を行う。招聘に関わる経費は約50万円の予定。 ドイツのLeibniz-Institute of Atmospheric Physicsにおいて9月開催予定のLayered Phenomena in the Mesopause Region(https://www.iap-kborn.de/en/current-issues/events/lpmr/)に参加して、本研究成果を発表する。あわせて、関連する研究を行っている国外の研究者と、流星レーダーを使用した中間圏の中性温度・電子温度の観測ネットワーク形成についての議論を行う。経費は約40万円の見込み。
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