滋賀県彦根市東部に分布する美濃帯の上部ペルム系チャートの大型研磨片を作成し,肉眼観察と双眼実体顕微鏡による観察を行った.一部の試料について5%フッ酸水溶液でエッチング処理を行い,肉眼観察と双眼実体顕微鏡による観察を行った. その結果,チャートから,葉理の褶曲,薄層の分断,ジグソー割れ目,墨流し状変形などの,未~半固結変形と判断される変形構造を見出した.それらの構造はチャート中の石英脈や破断面などに切られていることから,放散虫軟泥の堆積直後から続成過程の終了までの間に生じた変形の結果と考えられる.ほぼ全てのチャートに変形構造が見られた.変形の様式を,注入,薄層の分断,角礫化の3種類に類型化した. 検討したチャートは放散虫化石帯 のN. ornithoformis帯およびN. optima帯である.N.ornithoformis帯のチャートには角礫化の変形様式が多く見られた.N. optima帯のチャートには,注入,薄層の分断,角礫化の変形様式が見られた.N. optima帯の角礫化を示す試料では,角礫部と基質部のどちらからもA. triangularisが確認できた.また,薄層の分断を示す試料でチャートの色の異なる部分を切り出し,放散虫化石を個体分離した結果,いずれもA.triangularisを含むものの, Latentifistulariaに属する各種の含有量と種構成が大きく異なる群集が含まれていた.チャートの単層内部で化石群集の違いを検討した例はなく,群集組成の違いを説明するためには,更に検討を要する. 当初目的としたような,化石帯をまたいでの放散虫殻の移動の証拠を見出すことはできなかった.しかし,チャートの変形構造についての事例を多く集めることができた.変形の生じた場は,遠洋域深海底と付加体内部のいずれかが想定される.今後,変形の時期やメカニズムについて検討が必要である.
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