研究実績の概要 |
本研究は、マントル遷移層起源とされる主に中国北東部に分布する60 Ma~0 Maの火山岩を解析することによって、遷移層の含水量の時間変化を明らかにすることを目的とする。当初、Shuangliao地域(60-30 Ma)についても解析を行う予定であったが、既に含水量の推定がなされていたため(Chen et al., 2015)、今年度はChangbai地域の若い火山岩と古い(20 Ma)火山岩、および長崎県小値賀島(1-0.3 Ma)の火山岩を対象とした物質科学的解析を行った。 まず小値賀島の火山岩について含水量推定を行った結果、約1 Maから0.3 Maと若くなるにつれ、マグマの含水量が2 wt.%から1.2 wt.%へと減少したことが示唆された。またChangbai 地域の若い火山岩について、初生マグマの含水量は1.3 wt.%と推定された。一方Chanbai 地域の古い火山岩については、斜長石や輝石、ガラス包有物をもつカンラン石斑晶がなかったことから、含水量推定を行うことができなかった。 以上の推定値、および論文で公表されている含水量データを統合した結果、停滞スラブ上に分布する火山の初生マグマの含水量は、時間変化とともに空間変化が大きいことから、停滞スラブの脱水量の時間変化を解読するには至らなかった。これはマグマのソース物質が枯渇マントル、停滞スラブ起源の堆積物や海洋地殻物質から構成されるが、それらの量比が火山ごとに大きく異なることを主に反映しているためである。 そこでChangbai地域の若い火山岩に対象を絞り、推定された含水量やマントルポテンシャル温度に基づき、マントル遷移層からの上昇流の駆動力についての評価を行った。その結果、マントルプルームの浮力に対する水の効果は低く、むしろ部分溶融した停滞スラブの低密度の含水メルトが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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