研究課題
地球内部には炭素,水素,酸素(C-H-O)といった揮発性の軽元素を主成分とする流体が存在している.このような流体は岩石の融点を下げてマグマをできやすくするほか,様々な元素を溶かし込んで移動するため地球内部の化学進化に極めて重要な役割を担っている.この流体が地球内部でどの様な性質を持つのかを実験で調べる際には,どの深さに対応するのかを知るため圧力を精確に決定する必要がある.高温高圧力下における流体の研究には,ダイヤモンドアンビルセルが広く用いられてきた.しかしながら,これまでの方法では,加熱に伴って試料室の体積が変わらないなどの仮定を含んでおり,問題があった.また,適用範囲も地殻下部に相当する圧力までであり,より深いマントルでの実験には用いることができなかった.本研究では,炭素の同位体(13C)でできたダイヤモンドのラマンスペクトルが,温度と圧力に応じて変化することを利用し,マントル深部まで適用可能な圧力スケールを構築することを目的としている.今年度はマルチアンビル型高圧発生装置を使用し,炭素同位体でできたダイヤモンドの合成実験を試みた.実験後に回収した試料のラマンスペクトルとX線回折パターンを取得して,他の同位体(12C)を含まず,かつ結晶度の良い13Cダイヤモンドが得られたことを確認した.この13Cダイヤモンドを12Cダイヤモンドでできたダイヤモンドアンビルセルの試料室に装填し,レーザーを照射してラマンスペクトルを測定した.12Cと13Cのダイヤモンドは,それぞれラマン散乱の周波数が異なるため,両者を明瞭に区別することができた.さらに,温度と圧力を変化させて上部マントル深部の圧力までラマンスペクトルを得ることに成功した.
2: おおむね順調に進展している
当初の計画どおり,13C炭素同位体のみでできたダイヤモンドを合成して,高温高圧力下においてラマンスペクトルを測定することができた.まず13Cダイヤモンド合成では,13Cアモルファスカーボンを原料として,川井型マルチアンビル高圧発生装置を使用して20GPaの圧力下で, 1700℃に加熱した.これを常温常圧下に回収して,試料のラマンスペクトルを測定するとともに,粉末X線回折パターンを取得して生成物が13C同位体のみのダイヤモンドであることを確認した.また,ラマンスペクトル,X線回折パターンともにシャープであり,良好な結晶度であることを確認することができた.これを12Cダイヤモンドでできた外熱式ダイヤモンドアンビルセル中に装填して高温高圧実験を行った.その結果,13Cダイヤモンドのラマンスペクトルが温度と圧力の変化に応じて変化し,上部マントル深部の圧力である13GPaまで12Cダイヤモンドのラマンスペクトルと重なること無く測定できることを示すことができた.さらに,揮発性元素を含む高圧相について高温高圧実験を行った.試料のX線回折パターンを取得して,その安定領域を解明すると共に状態方程式を決定することができ,地球深部における揮発性元素の挙動について,新たな知見が得られた.
外熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験では,安定した温度・圧力を保持する必要がある.また,本研究の目的のためにはセル内には均一な温度場を実現しなくてはならない.このため,今後新型の外熱式ダイヤモンドアンビルセルを導入し,実験技術の改良をおこなう.このセルを使用して,試料室に装填した13Cダイヤモンドのラマンスペクトルの測定精度および圧力の決定精度を上げるとともに,温度・圧力範囲を拡大して13Cダイヤモンド圧力スケールを構築する.さらに,このスケールおよび高温高圧発生技術を応用してマントル中の流体(フルイド)に関する実験を行う.特に関心のあるのは粘度で,マントル流体の粘度測定を落球法または転下球法でおこなう.この際には金や白金といった金属および炭化物や窒化物できでた球を試料室に装填して,これらが流体中でどの様な速度で移動するのかを測定する.粘度測定に必要な高速カメラなどの周辺機器は,これまでの研究で用いてきたものを使用できるため,実験の準備は整っている.本研究および今後の研究では流体の物性測定を通じて地球深部における流体の挙動を明らかにしたいと考えているので,本研究の成果を学会で発表し,論文にまとめると共に,次年度以降の科学研究費補助金を申請して研究の推進に努める.
申請額と比べて配分額が大幅に減額されたため,主要物品であるダイヤモンドアンビルセルおよびダイヤモンドなどの購入を控え,研究協力者から借用して実験するなど経費節減に努めた.また,他に必要な物品や旅費などについても運営費交付金を充てるなどして,本研究予算からの支出をできるだけ抑えるように努めた.
実験を進める上でダイヤモンドなどの消耗は避けられない.既に発注済みなので,納品され次第実験に使用する.この他,実験にはガスなどの消耗品が必要で,また成果報告のための学会出張および論文投稿を計画している.このため,全研究期間では配分された額を研究経過に沿って支出する見込みである.
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 22件、 招待講演 1件)
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 112 ページ: 31-35
10.2465/jmps.160719e
High Pressure Research
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1080/08957959.2017.130193
Physics of the Earth and Planetary Interiors
巻: 257 ページ: 230-239
10.1016/j.pepi.2016.06.009
Progress in Earth and Planetary Science
巻: 3 ページ: -
10.1186/s40645-016-0114-5
巻: 111 ページ: 420-424
10.2465/jmps.160719c