研究実績の概要 |
(1)多成分系流体とマントル構成鉱物間の二面角を決定するピストンシリンダー実験を、olivine‐H2O, olivine‐H2O‐CO2 (X(CO2) = 0.33~0.5) の系において、圧力1.0~3.0 GPa、温度800~1100°Cで、72~192 時間の保持時間で実施した。それぞれの実験産物について、200の三重点の高分解能電子顕微鏡写真を撮影し、二面角を測定した。CO2を含む系では、2GPa以上ではmagnesiteとpyroxeneが生成する。純水の系では、二面角は温度・圧力の上昇とともに低下した。一方CO2を含む系では、1GPaにおいては二面角は温度上昇とともに低下するが、純水の系よりは大きい。またmagnesiteが共存する高圧条件では、二面角は純粋の場合と同程度かむしろ小さいことがわかった。これはCO2成分の添加が、必ずしも二面角を増加させず、低下させる場合があることを示す。(2)マントルに存在する水の存在量や存在形態をマッピングするには、地震波速度が重要な情報源の一つとなっている。とりわけ、縦波・横波速度の比、あるいはポアソン比は、地震波トモグラフィにおいて温度の不均質と流体の存在とを区別する上で重要である。前弧楔形マントルなど比較的低温のマントルでは、流体はカンラン岩と反応して含水鉱物を形成するため、含水鉱物の地震波速度を理解することが重要となる。本研究において、かんらん岩と流体との反応実験を行う中で、Antigoriteのみが平衡な化学組成・温度圧力領域でも、斜方輝石が選択的に反応して実効的な化学組成がSiO2-richとなり、準安定相のTalcが生成することを発見した。Talcは準安定相ながら、水の供給が不十分なリソスフェアでは安定に存在し得ると考えられ、西アルプス南部沈み込み帯などの地震波速度異常をうまく説明することができる。
|