研究実績の概要 |
氷の多形の探査は、過去100年以上にわたって温度・圧力を変数とした観察をもとに進められてきた。本研究では、温度・圧力に加えて、新たに電場を変数とすることで、これまで観測されることのなかった秩序構造を見出すことを目的とし、高圧かつ高電圧化における中性子回折実験のためのセル構成の開発を経て、世界初となる高圧高電場化でのその場中性子回折実験を実施することに成功した。平成30年度は、これまで得られた中性子回折パターンを解析し、また、新たに高圧力下における誘電率測定装置を開発して、氷VII相の秩序化の度合いを検討した。得られた成果は主に以下の3点である。1) H29までに得られた高圧下高電圧下での中性子回折パターンからは、6.1 GPa, 10 kV/mmまでの圧力・電場下において、新たな秩序相の存在を示す証拠は得られなかった。2) しかし、誘電率測定の結果からは数%の秩序化が予想されることから、高電場下で秩序化が進行しなかったのではなく、秩序化に起因するピークが中性子回折パターンのノイズに埋もれてしまっているものと思われる。3) H29まで7GPaまでの誘電率測定が可能であったが、H30はこの圧力上限を12GPaまで拡げることに成功した。本装置を用いてice VIIIの誘電率測定を行ったところ、水分子の回転に由来する緩和と水素原子のホッピングに由来する緩和が10 GPa付近でクロスオーバーを示すことが明らかになった。 研究の過程で開発した、高圧―高電圧下中性子回折実験手法および、高圧下誘電率測定装置は、氷以外の多様な試料にも容易に応用できる。
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