研究実績の概要 |
本研究はアルカリ熱水噴出孔環境が生み出す温度とpHの勾配を利用し,アミノ酸の水中での(脱水)重合化の駆動を目指している.これらの勾配は噴出孔内外に大きな電位差を生じ,内から外へ向かう定常的な電子の流れを発生させる(Yamamoto et al., 2017).我々はまず,噴出孔に普遍的に存在する硫化鉱物(Ag2S, CdS, CoS, CuS, FeS, NiS, MnS, MoS2, NiS, WS2, ZnS)を用意し,この粉末に負電荷を印加し,CO2やH2Oの還元挙動を調べた.その結果,カドミウム硫化物(CdS)の表面ではCO2のCOへの還元が非常に効率よく進展し,-1V (vs. SHE)以下の条件下で40%程度のファラデー効率が観測された.次に,CdS上で発生した還元ガスを回収し,鉄・ニッケル硫化物,硫化ナトリウム,グリシンと共にガラス瓶に封入し,100℃で数日間の加熱を行ったところ,グリシン2量体の生成が確認された.メカニズムとしては,CO2の還元により発生したCOが硫化物イオンと反応し硫化カルボニルへと変化し(CO + S2- + 2H+ → COS + H2),この化合物の脱水がグリシンの脱水と共役することで重合化が駆動されたと考えられる.以上の実験条件は初期海洋に普遍的に存在したと推定されるアルカリ熱水噴出孔環境で十分実現可能な範囲である.本研究成果は原稿にまとめ,現在Nature Communicationsへ投稿中である.
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