本研究課題では、残留磁化から温度や磁場などの生成環境を紐解く岩石磁気学的手法を隕石中のナノメートルサイズの粒子に適用し、電子線ホログラフィーを用いて、従来の隕石のバルク分析では隠れていた、構成粒子個々の残留磁化の可視化から生成環境を解読できることを示すことを目的としている。これに対し、南極の雪から回収した彗星起源の塵中に含まれるGEMS(Glass with Embedded Metal and Sulfides)と呼ばれる、ケイ酸塩ガラス粒子が包有している数十ナノメートルサイズの金属粒子や硫化物粒子に注目した。彗星塵試料を硫黄包埋した後にウルトラミクロトームで切り出して超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)グリッド上のカーボン膜上に支持させた。電子線によるチャージアップやコンタミネーションを低減するために、TEMグリッドの両面にそれぞれ10 nmのカーボン蒸着を行った。この試料を電子線ホログラフィー専用のTEMに特別に用意されている磁場フリーのローレンツホルダーの観察位置に導入した。対象とする粒子のサイズが小さいために、磁束の量も小さいことが予想されたため、位相シフト法を用いて残留磁化を調べた。試料の内部ポテンシャルによる位相変化と磁束による位相変化を切り分けるために、表面と裏面それぞれから電子線を入射させた電子干渉パターンを取得した。データを処理した結果、粒子内に磁束によるものと思われる位相の傾斜を検出することに成功した。
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