研究課題
平成29年度の研究では、工場等での人為的な燃焼を経て大気中に放出されるエアロゾル中の鉄に着目し、海洋表層における生物生産に対するその影響を明らかにするため研究を行った。これまでの研究で、人為起源鉄が特異的に低い鉄安定同位体比(δ56Fe (‰) = {(56Fe/54Fe)試料/ (56Fe/54Fe)標準 -1} × 1000)を持ち、トレーサーとして用いることができるということを明らかにしたので、さらにその発生プロセスと海洋表層への寄与の評価を目標として研究を進めた。特に人為起源鉄の発生プロセスについて明らかにするため、排出源付近でのサンプリング、分析を行った。まず、千葉県内の製鉄所付近において、エアロゾル試料のサンプリングを実施した。採取した試料はSEM, TEM等による個別粒子観察のほか、X線吸収微細構造法(XAFS法)を用いた鉄化学種の解析、またμ-XRF-XAFS法による個別粒子ごとの鉄化学種解析、マルチコレクター型ICP質量分析計による鉄同位体の分析を行った。この結果については、現在論文を執筆中である。また電力中央研究所の協力のもと、同研究所内の火力発電燃焼試験設備での石炭燃焼時に発生する微小粒子のサンプリングを実施した。微小粒子の他、燃焼源の石炭なども入手し、今後上記製鉄所試料と同様に同位体や化学種の分析を行う予定である。さらに閉じられた系において人為起源鉄の発生プロセスを追うため、実験室において条件を管理して燃焼実験を行った。燃焼させる原料として、排出源の一つである野焼きに着目し、植物のヨシを使用した。温度等の条件管理が未確定であり、目的に合った試料はまだ得られていないが、今後更に条件を検討し、バイオマス燃焼に伴う鉄の同位体分別についてもさらに検討を進める。
2: おおむね順調に進展している
これまでの計画通り、人為的燃焼に伴う金属元素の揮発に伴う同位体分別について、様々な試料を採取し、その分別の程度を明らかにする研究を進めるができた。実際に鉄に関しては、予想通り燃焼に伴う同位体分別が観察されたため、今後定量的な考察を行う予定である。
また平成29年度には、エアロゾル中の鉄の軽い同位体比が実際に海水中の鉄に移行するかを調べるため、北太平洋を横断する研究航海ににおいて、エアロゾル試料と表層海水試料を採取したので、この分析を精力的に進める計画である。
管状電気炉を用いた室内実験において、粒径別サンプリングの方法を検討していたが、十分な準備ができなかったため、平成30年度にこの設計と装置の開発を進めるために、平成29年度の資金の一部を平成30年度に使用することとした。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 3件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 14件) 学会発表 (51件) (うち国際学会 9件、 招待講演 6件)
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