研究課題/領域番号 |
16K13912
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70463908)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古環境復元 / 古水温 / 古塩分 / 酸素同位体皮 / ムラサキイガイ / 同位体 / 有機物酸素同位体 |
研究実績の概要 |
2016年度はサンプル採取と有機物酸素同位体比の予察的な分析を行った.東京湾からは夏期の低塩分の季節に湾内約10箇所からムラサキイガイと海藻を採取した.岩手県大槌湾で春夏秋冬それぞれの季節において,湾内約10箇所からムラサキイガイ・海藻・海水を採取し,大槌湾に降り注ぐ3つの河川から河川水を採取した.大槌湾の河川水の同位体比の年間変動幅は0.6パーミルの範囲,標準偏差は0.2パーミルに収まり,大槌湾の海水の酸素同位体比はほぼ塩分で決まり,降水の季節変動を考慮する必要が無い事を明らかにした.この成果は既に論文として投稿中である. また,東京湾と三陸沿岸から採取したムラサキイガイについて,淡水および海水の有機物の起源の指標となる炭素・窒素安定同位体比を分析した.その結果,河川に近い箇所から採取した個体ほど陸由来の低い炭素同位体比を示す傾向が見られた.一方,窒素同位体比に関しては,ムラサキイガイの軟体部の組成と付近から採取された海藻の組成が正の相関を示し,栄養塩の起源に依存して窒素同位体組成が変動する事を示した.また,軟体部と殻皮の同位体組成を比較した結果,炭素窒素共に両者が良い正の相関を示す事が示された.このことは殻皮が軟組織の同位体組成の経時変化を記録している事を示している. 予察的な分析として,淡水に生息するカワシンジュガイと沿岸域に生息するムラサキイガイの酸素同位体比を分析した.その結果,それぞれ+21.8パーミルと+34.3パーミルという値を示し,殻皮と環境水の同位体比は整合的な傾向を示した.ただし,N2とCOの分離が悪いため分析法の検討が必要である事がわかり,十分な精度と確度を得るためには分析法を検討する必要がある事がわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2016年度は,本研究課題の試料の分析を担当する予定であった技術補佐員を含め,研究室の6人のうち半分の3人が産休を取得した.私の研究室は子育て世代にとって働きやすい環境を目指しており,これは誇るべき成果だと信じている.一方で,熟練した高度な技術補佐員やポスドクが不在となる事は研究費の申請時には想定しておらず,当初計画した通りには研究を進める事は不可能であった.研究経費に関しても,産休中の人件費は不要となったが,装置保守や実験作業などを外注する必要が出てくるなど,それ以上に経費が必要となった.また,人材が不足したとしても,他の人が関わる共同研究のアクティビティは下げる訳にはいかず,その結果,本課題のように代表者一人でほぼ遂行するような研究課題にしわ寄せが来てしまった.そのため,2016年はタイミングを逃すことができない試料採取を優先して行い,最も重要な分析に研究エフォートを割くことが出来なかった.女性が活躍できる環境を整備するためには,雇用する側への支援制度もあると良いのではと感じた.そしてそれ以上に,競争的な環境に晒されている女性研究者が安心して出産できるようになるためには,現在のRPDなどの制度だけでは十分では無く,産休を取得する女性に対するさらなる手厚い支援が必要だと強く感じた.雇用する側でさえ研究進捗の遅は非常に後ろめたい気持ちとなるのに,女性研究者自身のキャリア構築が遅れる事への不安は相当のものだと思われる.例えば,休職中に代理で研究を進められるよう人件費を手当てする,復職後に研究の遅れを取り戻せるよう研究費を手当てするなど,現在の競争環境では女性の方に不利益が大きい状況になっていることを鑑みると,女性に対してより手厚い支援があるべきではないかと思う.このような事を本欄に書くべきか悩ましいが,制度設計者の目にとまる可能性も無きにしも非ずと考えここに記した.
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今後の研究の推進方策 |
幸いな事に産休を取得した3名は全員復職をしてくれた.5年間の雇い止めや産休育休への無理解など,有期雇用や女性が安定して働くための障壁や制約が数多くある中,熟練した高度な技術を身につけた人材が継続して研究に貢献してくれる事は,持続的な研究の推進に必要不可欠である.最先端のデータを効率的に出すことができるのはひとえに私の研究室で働いている6人の有期雇用のポスドク・技術補佐員のおかげであり,現在の体制であれば昨年度分の遅れを取り戻すだけに留まらず,研究が大幅に進捗すると信じている. 2017年度は,2016年に行う予定であった分析法の基礎検討を行った上で,実際の試料の分析を行う.研究を取りまとめるために必要となる一連の試料は既に採取済みであり,技術補佐員の協力を得ながら効率的に試料の分析を進める.試料採取については十分に検討して行っており,どのようなデータが出ても系統だった新たな知見が期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初雇用予定であった技術補佐員が産休で休職・退職したため雇用する事ができなかったため予定していた人件費が不要となった.
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次年度使用額の使用計画 |
当初雇用予定であった技術補佐員が復職したため,次年度の雇用に充当する.
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