研究課題/領域番号 |
16K13915
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日高 洋 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10208770)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バリウム / 同位体 / 水質変成 |
研究実績の概要 |
消滅核種135Csの原始太陽系における存在度を定量的に評価することを目的とし、母天体上で激しく水質変成を起こした形跡のあるタギッシュレイク隕石について以下の2つのアプローチによるBa同位体比測定を試みた。 (1)試料を粉砕し、酸による段階溶出によって得られた6つのフラクションについて熱イオン化質量分析計により精密な同位体測定を行った。まず、得られたフラクションについてSr同位体比測定を含むRb-Sr壊変系が構築できるか否かを試みたところ、Rb-Sr壊変系は大きく乱され、年代を示すアイソクロンを形成しないことがわかった。これによりCs-Ba壊変系も閉鎖系を保持できていないことが示唆された。各フラクションのBa同位体比は、太陽系形成直後に太陽系外からの原子核合成付加成分が不均一に存在していることを示す結果が得られた。本研究結果は2018年1月に米国天文学会の専門誌アストロフィジカルジャーナルに掲載された。 (2)厚片研磨試料を準備し、光学顕微鏡およびレーザーラマン分光により試料内の主構成鉱物を確認した後、同試料内の特定フェーズ(ドロマイト、一部が蛇紋石化したオリビンなど水質変成の影響が大きいと考えられる部分)に焦点をしぼり、高感度高分解能イオンマイクロプローブを用いて微小領域のBa同位体測定を行った。化学分離を伴わない本研究結果においてはBa同位体の質量スペクトル上に正体不明の複合化合物の同重体の干渉があり、正確な同位体比データを得るに至らなかったが、上記(1)では見出せなかったCs/Ba比が異様に高いフェーズの存在を発見するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の新たな取り組みとして実施した高感度高分解能イオンマイクロプローブによるBa同位体の局所領域分析によって、水質変成をうけた痕跡のある隕石中に非常に高いCs/Ba比をもつフェーズを特定することができた。さらに、Cs-Ba壊変形の保持状態を評価する一つの指標として、同じくアルカリ金属元素である1族からアルカリ土類金属である2族への壊変である40K-40Caおよび87Rb-87Srを同時に確認することを計画中である。今後、引き続いて行う研究に非常に期待がもたれる。
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今後の研究の推進方策 |
太陽系の始原惑星物質という位置づけにあるタイプの異なる炭素質コンドライト隕石について、酸を用いた段階溶出によって5つに分画された成分についてカルシウム、ストロンチウム、バリウム同位体を精密に測定することにより、K-Ca壊変系およびRb-Sr壊変系の閉鎖の程度の違いを見ながらCs-Ba壊変系のそれとの因果関係について詳細を議論する。 高感度高分解能イオンマイクロプローブによる局所同位体比分析の導入により、高度に水質変成を受けた隕石内に見出された非常に高いCs/Ba比をもつ特定部位について物質科学的な同定をおこなうことを試み、その精密なBa同位体比測定から137Csの壊変生成物の痕跡について究明する。 また、同アプローチを用いて、タイプの異なる他の炭素質コンドライト隕石(CM2、CV3、CK4~CK5)についても同様な試みを行い、結果を相互比較することで太陽系初期の同位体不均一の可能性ならびにその程度について、より定量的に議論するための材料を揃えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に確立した化学分析手法を改良・簡素化することにより、必要とする消耗品を一部削減することができた。また、本研究の実施においては、分析試料の調製を名古屋大学で行い、化学処理後の同位体分析を国立科学博物館(茨城県つくば市)にて、高感度高分解能イオンマイクロプローブを用いた局所同位体分析を国立極地研究所(東京都立川市)にて行っているが、2017年度の測定計画に対して、たびたび学内の緊急用務と重なったために出張計画を変更する必要が生じ、当初の計画に対し、実測回数が減少した。 今年度は、学内用務の少ない期間を有効に利用して出張実験の計画を立てるとともに、微量成分元素の高精度同位体分析と微小領域の高感度同位体分析を併用し、新たな化学分析手法も取り入れながら本研究課題を実施する。
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