研究実績の概要 |
消滅核種135Csの原始太陽系における存在度を定量的に評価することを目的とし、母天体上で激しく水質変成を起こした形跡のあるタイプ2の炭素質コンドライト隕石であるCold Bokkeveld, Murray, Nogoyo, NWA 4428について化学処理を行い、各々の試料から6つのフラクションを回収した。その後、試料溶液は二分し、その大部分は所定のイオン交換法により、Sr、Baを分離回収し、同位体分析を行った。残りの試料溶液は、Rb、Sr、Cs、Ba、希土類元素の定量分析に用いた。 酸溶出フラクションのBa同位体データの多くは、135Ba、 137Ba および138Baに連動した正の同位体異常が見られた。一方、酸残渣には130Ba、 132Ba、135Ba、137Baおよび138Baに連動した負の同位体異常が見られた。これらのBa同位体データからは、原始太陽系において太陽系外からの原子核合成成分が不均質に分布していたことが示唆される。 一方、化学処理を伴わない同位体化学的アプローチとして、同じく激しい水質変成の痕跡が見られる炭素質コンドライトTagish Lakeについて、イオンプローブによるRb/Sr及びCs/Ba局所分析を行った結果、Rb/SrおよびCs/Baには大きな変動が見られ(Rb/Sr: 0.038~1.3, Cs/Ba: 0.015~1.3)、その中には全岩のCs/Ba比(0.015)に比べ優位に高いCs/Ba比を示す特定部位が確認できた。これらの特定部位についてバリウム同位体局所分析を行っているが、現時点ではまだ顕著な135Ba同位体過剰成分は認められていない。135Csからの壊変起源による135Ba同位体の過剰成分を見積もるために、太陽系外からの原子核合成付加成分を定量的に補正する新しいモデルについて現在、構築中である。
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