研究実績の概要 |
一般の分子動力学計算で用いられる古典力場と異なり、有効フラグメントポテンシャル(EFP)法では予め狙った熱力学物性に対して力場パラメーターを最適化する必要はなく、(分子固定近似の範囲内で、)ユーザーの技量に依存しない一般的で第一原理的な力場を作成することができる。本年度は、EXAFS によるカチオン―アニオン間の距離情報、融点、常温常圧時の密度などの基礎物性の実験報告が豊富に存在し、分子固定近似もよく成り立つジメチルイミダゾリウムカチオン([mmim]+)とハロゲンアニオン(X-; X=Cl, Br, I)から構成される純イオン液体について EFP-MD を実施した。 まず、EFP の精度をチェックするため、MP2/6-31G(d) レベルの最適化構造で作成した EFP を二量体 [mmim]+…X- について適用することで相互作用エネルギーを求め、そのエネルギー成分を静電・交換反発・分極・分散相互作用に分割した。同モデルについて、CCSD(T)/6-31G(d) レベルの局在化分子軌道エネルギー分割法を適用し、EFP と量子化学計算でエネルギー成分まで対応させることで、EFP の精度を確認した。その結果、EFP は量子化学計算の結果を数 kcal/mol の範囲内で再現し、量子化学計算の精度を持つ力場となることが分かった。 続いて [mmim]+/Cl- 32ペアからなる系について, EFP-MDを実施し、溶液構造を実験結果と比較検討した。具体的には、[mmim]+…X-、[mmim]+…[mmim]+、X-…X- の二体相関関数を算出し、中性子線回折実験および第一原理分子動力学計算(CPMD)の結果と比較した。その結果、EFP-MD は実験結果および CPMD の結果を定量的に再現すること、その計算コストは CPMD のものに比して 100倍以上も低いことが分かった。
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