研究課題/領域番号 |
16K13934
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
太田 薫 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 特命准教授 (30397822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超短パルス光 / 位相共役光 / 空間位相変調器 / 波形制御 / 散乱体 |
研究実績の概要 |
光学的に不透明な媒質をレーザーなどのコヒーレント光が透過する際には、多重散乱や光の拡散が起こり、ある特定の場所に光を効率よく集めることが非常に困難となる。本研究課題では、デジタル位相共役法と時間領域の波形制御(パルスシェーピング)を融合させることで、散乱体透過後の超短パルス光を空間上の任意の1点に集光し、時間方向に拡がった超短パルス光の特性を操作、最適化することに挑戦する。平成29年度は時間領域の波形制御法と空間領域の波形制御法を組み合わせることにより、超短パルス光の時空間波形制御のための光学系を構築し、その性能評価を行った。時間領域の波形制御法では既存の光学系を改良し、MIIPS (Multiphoton Intrapulse Interference Phase Scan)法により、パルス光の時間幅の最適化や制御を行った。さらに空間領域の波形制御法では転送行列法をベースとした光学系を構築した。散乱体としてはホログラフィックディフューザー(光学拡散板)を用いて、時空間領域での波形制御法の原理検証実験を行った。時空間領域での波形制御ではまず、2次元液晶空間位相変調器を用いて空間領域での制御を行い、光学拡散板透過後に空間上の任意の1点に集光できることを確認した。その後、時間領域の波形制御法により超短パルス光に位相変調を与え、スペクトル干渉法を用いて、超短パルス光の位相を評価した。その結果、光学拡散板では波長に依存した位相変調を与えても集光の度合いに変化がなく、予想される位相変調からのずれも小さいことがわかった。このことは時間領域と空間領域での波形制御を組み合わせることにより、拡散板透過後も超短パルス光の時空間特性の制御が可能であるということを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、デジタル位相共役発生法による空間領域での波形制御を予定していたが、超短パルス光への応用では光学系の構築が容易である転送行列法をベースとした制御法に変更した。その結果、平成29年度中に光学拡散板を用いて、超短パルス光の時空間領域での波形制御の原理検証実験を完了することができ、計画通りに進行している。今後はデジタル位相共役発生法をベースとした光学系の構築や多重散乱が起こるような系への応用に挑戦する。
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今後の研究の推進方策 |
多重散乱が起こるような散乱体に応用する場合、超短パルス光の空間領域、時間領域の特性はそれぞれが独立ではなく、互いに関係している。そのために、どちらか一方の領域の特性を最適化した場合、他方の性質が変化することが予想される。しかし、光学拡散板を用いた検証実験ではその変化はそれほど大きくないことがわかった。多重散乱が起こるような散乱体に応用する場合では、空間領域と時間領域の特性が互いに絡んでいることを考慮に入れ、その補正を最適化計算に組み込むなどの手法も合わせて検討し、超短パルス光の時空間波形制御法の適用範囲を広げることに挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、デジタル位相共役法の光学系の構築に必要と考えていたピクセル数の多い2次元液晶空間位相変調器とCCDカメラの購入を予定していた。しかし、転送行列法をベースとした制御法に変更したため、現有の機器により超短パルス光の時空間波形制御法の原理検証実験を完了することができた。そのため、次年度使用額が生じた。 平成30年度以降はデジタル位相共役発生法をベースとした光学系の構築やや多重散乱が起こるような系への応用を予定している。交付金はこのために必要な光学部品や光学機器類の購入に充てる。
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