多核金属錯体のスピン状態の精密な計算を目的として、モンテカルロ法によって重要な電子配置を選択する配置間相互作用(CI)法の開発を行った。これらの分子では、金属の3d軌道への電子の詰まり方(電子配置)が無数にあるため、重要な配置のみを高速に選択できなければ、スピン状態計算は不可能である。今回提案した方法では、波動関数の1次補正の中で大きな展開係数を持つ電子配置について重点的にサンプリングを行う。サンプリングされた電子配置を使用してスピン状態を計算し、寄与の小さな電子配置を消去するということを繰り返して重要な電子配置を選択する。この理論のプログラムを作成し、小分子の計算で確かめたところ、ランダムに電子配置をサンプリングする既存のモンテカルロCI法と比較して、収束までの繰り返し回数が20分の1以下となり、高速に重要な配置の選択ができることが解った。この理論を、Monte Carlo Correction CI(MC3I)法と名付け、論文は、J. Chem. Phys.に掲載された。また、MC3I波動関数に摂動を加えて、少ない計算労力で計算精度を向上させることができるMC3IPT理論も開発した。Mn4O4などの多核金属錯体のテスト計算では、予想通り、狭いエネルギー領域に多数のスピン状態を計算することができたが、スピン対称性が大きく崩れ、スピン状態の帰属が困難という問題が見つかった。これは、選択された電子配置によって張られた空間が、スピン演算子について閉じていないからである。このスピン対称性が満たされないという問題は、スピン演算子を、選択された電子配置に、収束するまで繰り返し作用させることによって、解決できることが解った。電子配置を高速に選択できるMC3I法と、選択された電子配置のスピン対称性を満たす方法によって、多核金属錯体のスピン状態を精密に計算できる方法を提案できた。
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