研究課題/領域番号 |
16K13936
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
香月 浩之 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (10390642)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コヒーレント制御 / 液体パラ水素 / 近接場光 |
研究実績の概要 |
当初の予定では固体水素をターゲットに用い超分解能分光を行う予定であったが、極低温クライオ中での光の集光に関して二点の問題が生じた。一つ目は対物レンズを極低温環境下に入れて使用する場合の技術的な困難さであり、二つ目は固体パラ水素にタイトスポットで集光した場合に微細なクラックが生じてしまい、同じ位置に光を集光し続けるとシグナルが劣化することである。問題を単純化するために目標を二段階に分離して、(1)極低温クライオ中における液体水素をターゲットとした計測系の構築、(2)回折限界スポットでのコヒーレント制御を行うための新たな対象として室温で近接場光を扱える対象系としてブロッホ表面波=励起子強結合状態を対象とした超分解能コヒーレンス制御系の開発、に分けて行うことにした。(1)の液体水素系ではクラックが生じることがないために安定したシグナルが計測できると考えている。まず従来の手法で固体水素を作成し、その後昇温することで液体水素を作成することに成功した。ただ、液体になった後で、水素を封じ込めた銅セルから外部への水素のリークが生じてしまい、クライオスタットの断熱が破れてしまう現象が何度か生じてしまった。セルの窓板はインジウムシールを用いて固定しているが、液体状態の水素を扱う場合には、固体結晶の場合よりも厳密なリーク管理が必要であることがわかった。(2)に関しては、反射率の高いストップバンドを形成するために二種の酸化膜(SiO2とTa2O5)を周期的に積層したDBRとその表面に色素分子を溶かしたPVA(ポリビニルアルコール)の薄膜を形成することで強結合状態の作成を目指している。現在、転送行列を用いたシミュレーションを行い最適な膜厚条件の探索、石英基板上にPVA+シアニン色素の薄膜をスピンコートで成膜しその厚さを評価、測定に用いる全反射型の顕微鏡の構築の各段階を並行して行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
固体パラ水素に光照射した際に、タイトフォーカスの影響でクラックが発生する問題が生じたが、原因が極低温中での顕微分光の問題にあり、安易な解決手法がないことから二段階に切り分けて実験を進めることにした。当初のアイデアであるドーナツ型の光スポットとガウス型の光スポット間の干渉を取る実験を極低温で行う際には、対象として固体パラ水素に変わって液体パラ水素を用いることでクラックの影響はなくなる。この状態でフラウンホーファー回折近似の範囲内で実験を試みる。液体を利用することで緩和時間は多少短くなるが、本質に影響はないと判断した。実験において、セルからの液体水素リークの問題が生じ、現在その解決法を試している状況である。 一方、回折限界レベルの微小スポットを利用してドーナツ型の光スポットとガウス型の光スポット間の干渉を取る実験ができるような環境として、近接場光を利用したブロッホ表面波=有機分子強結合系を選択した。励起された結合状態は二次元平面内を運動し、それに応じたイメージが計測できることが知られているため、時間経過後の拡散状態の広がり方から、当初のスポットの状態について議論は可能であると期待している。励起光として405nmのcw半導体レーザーと415nmフェムト秒レーザーを使用する予定であり、このため試料としてクマリン540色素を選択した。単純なバルク薄膜での強結合状態を実現するためにサンプルの調製を行っている。計測用の全反射顕微光学系はほぼ完成しており、励起光の入射角度を変更させつつ、蛍光の空間分布、運動量分布、スペクトルのそれぞれを測定することが可能となっている。現在、顕微鏡用のカバーガラスを基板として、その表面に周期多層膜をスパッタしたものを準備中である。この準備ができ次第、表面に色素薄膜を成膜して、ブロッホ表面波=有機分子強結合状態の確認を行う。
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今後の研究の推進方策 |
上に上げたとおり、(1)液体パラ水素のコヒーレント制御実験と(2)ブロッホ表面波=有機分子強結合系の制御実験を進めていく。(1)については、リーク安定してなくせるようなシール方法を開発する。窓板の再利用を廃止することで窓板を剥がすときにできる傷などの影響を減らせると考えている。まずは、室温からの長焦点距離レンズを用いたコヒーレント制御実験を行う。その際、リング及びガウス型の集光スポットを用い、両者の干渉を取る。長焦点距離レンズでの実験なので、回折限界は越えられないが、原理的にラマン励起の空間スポットの量子干渉によるサイズ制御が可能であることを示したい。リークの問題に安定した解決法が得られない場合には従来通り固体ターゲットを利用してリング+ガウス型のスポットでの検証実験を行う予定である。 (2)については外部機関(産総研)の施設を利用して、ブロッホ表面波を保持できるDBR多層膜を作成する予定である。その上にシアニン系色素をPVAで展開した薄膜を成膜することで試料を作成する。まずはバルクサンプルで強結合状態の確認とラビ分裂の観測を行う。空間的に励起スポットが移動する様子をイメージとして計測し、これを元に励起時の集光スポット径とポラリトンの空間分布間の関連性について調べる予定である。回折限界レベルのスポット径と、それより大きなスポット径で励起した場合での空間分布の違いから、逆算して励起した瞬間のスポット形状を求められるかどうかを実証する。可能であれば、励起スポット形状を複雑な形状に変化させて同様な計算を行い、励起スポット形状が最終的なポラリトンのフローパターンからどこまで辿れるかを実証し、この手法が回折限界を超えた場合の励起スポット径評価の手法として使用できることを実証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ターゲット試料として水素以外にブロッホ表面波=有機薄膜結合系を利用することを計画しており、そのために新たにDBR(Distributed Bragg reflector)の成膜を次年度に行う必要が生じ。このために必要となる費用として187,138円を翌年度分として請求した。
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次年度使用額の使用計画 |
産総研の装置の外部利用の枠組みを用いて、DBR(Distributed Bragg reflector)の成膜を行う予定である。そのための費用として計上する。
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