研究課題/領域番号 |
16K13939
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井村 考平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80342632)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / カソードルミネッセンス / ナノ構造体 / 変調分光法 |
研究実績の概要 |
走査型電子顕微鏡と分光測定法の融合により,ナノ物質の光学特性の実空間計測が可能となる。特に低真空下ではガラス基板上の試料観測が可能となることから応用範囲の拡大が期待される。電子線により励起される試料からの発光(カソードルミネッセンス)は,高倍率対物レンズにより高効率に集光できることから,ナノ物質の高感度計測を達成できる可能性がある。しかし実際には,試料基板からの強い発光が微弱な試料発光に重畳するために,試料計測は著しく困難である。本申請では,発光計測に位相シフト変調分光法を導入して高感度分光顕微鏡を開発し,その有効性と汎用性を明らかにすることを目的とする。以上の目的を実現するために,本年度は(1)閉回路ピエゾステージと油浸対物レンズの真空層への導入と(2)電子線励起条件の最適化,さらには(3)それらの有効性の検証に取り組んだ。 まず,油浸対物レンズを閉回路ピエゾステージにマウントすることにより,高精度焦点調整と高感度化を実現した。また,これにより従来とくらべて短時間でのスペクトル測定を可能とした。次に,試料の電子励起条件の検討を行った。電子線の試料への侵入長は,電子線の加速電圧に依存する。特に,高加速電圧印可では,試料に加えて試料基板への電子線侵入が起こり,これが測定のバックグランドとなる。電子線侵入長の加速電圧依存性を実験およびシミュレーションにより検証し最適化を行った。最後に,改良した装置を用いて,ZnOおよび有機物質をテスト試料として,カソードルミネッセンス測定を行った。ZnOを用いた計測から,装置の改良により空間分解能を約20%向上したことを明らかにした。一方,有機物質を用いた測定から,低真空下ではガラス基板上の非電導性の試料の測定も可能であることを明らかにした。さらに,電子線の励起条件により,特異な光学特性を示す物質誘導が可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で高感度化を実現する重要なポイントは,位相シフトスペクトル変調分光法の導入によるバックグランドの軽減である。位相シフトスペクトル法を導入するにあたり装置の高精度化が必要であり,それが概ね実現している。当初の計画については,計画以上の進展はないものの,当初予定していなかった有機試料での知見が得られるなどの成果があがっている。以上の理由から,本研究は概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,位相シフトスペクトル法のテスト計測を行い,その問題点が明らかとなっている。本年度前半までに,それらの問題点を克服し,すみやかに測定法の高精度化を進める計画である。装置改良の完成後は,ガラス基板上の金属ナノ構造体のカソードルミネッセンス測定に取り組み,ナノ構造体に励起される素励起の空間モードの可視化が実現するかを検討する。金属の発光収率は一般に極めて低いことから,基板からの発光の影響を位相シフトスペクトル法でも完全に取り除くことができない可能性がある。その場合は,より発光性の低い石英ガラスやBNを基板として,測定法の高精度化を再度検討し,測定手法の有効性と汎用性を明らかにする計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置改良のために購入した対物レンズステージから予想外のノイズが発生することが明らかとなり,その改善に時間を要した。またこれにより試料のテスト測定を開始するのが大幅に遅れることとなった。さらに,テスト測定後にあらたに試薬と光学部品の購入が必要となったが,その納入に時間がかかることが判明したため,次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度より繰り越した試薬と光学部品の購入に充てることとした。5月前半までに納品が完了し,次年度に繰り越した予算をほぼ執行した。
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