研究実績の概要 |
測定系はまだ未完成なので、溶液系でフェムト秒過渡吸収スペクトルを測定し、予備的な実験を行っている。本研究では光合成の光化学系II反応中心(PSII)の顕微分光を予定しているが、まずは溶液系で測定を行い、論文発表した(Y. Yoneda, et al., J. Am. Chem. Soc., 138, (2016) 11599)。ここでは、PSIIのモノマーおよびダイマーの光エネルギー移動過程と電荷分離過程の比較を行った。励起光強度を上げていくと、蛋白質複合体中の複数のクロロフィルが励起されることにより、励起子-励起子対消滅が起こるようになるが、ダイマーにおいても高効率に対消滅が起こることが観測され、ダイマー中のモノマー間でも高効率でエネルギー移動が起こることが確認された。さらに奇妙なことに、二項定理に基づくモデル計算では、ダイマーの場合も一つしかラジカル対ができないことが示唆された。ダイマーでは反応中心が二つあるため、ラジカル対が二つ生成することも可能だが、一つしか生成しないということは、なんらかの過剰光防御機構があることを示唆している。今後はPSIIの微結晶について顕微分光による励起状態ダイナミクスの観測を行う予定である。ビアントリル誘導体についてもフェムト秒過渡吸収測定を行い、溶媒和に依存しない超高速の電荷分離反応を観測した(E. Takeuchi, J. Phys. Chem. C, 120, (2016) 14502)。その際、電荷分離にともなう核波束運動の観測にも成功している。電荷分離の反応速度が溶媒和に依存しないということは、結晶等固体中でも電荷分離が起こる可能性を示唆しており、顕微分光のサンプルとして期待できる。
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