研究課題/領域番号 |
16K13941
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
増田 卓也 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (20466460)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 表面・界面 / その場計測 |
研究実績の概要 |
X線光電子分光装置の2次元検出器が取得した信号を分岐・変換し、検出感度を向上させることによって、計測に要する時間を大幅に短縮し、化学反応に付随した組成・酸化状態変化をその場・時分割で追跡するための測定系構築に関して実証実験を進めている。 申請者が保有する装置では、2次元検出器の各チャンネルに入る信号情報が積算され、信号処理された結果のスペクトルが専用のPCソフトウェア上において表示されるため、検出器の各チャンネルの信号を個別に取り扱うことができなかった。そこでH28年度は、リアルタイムでの信号の取り出しが可能な測定系の構築を行った。既存装置の検出器には導線が張り巡らされており、導線に電子が衝突すると両端に向かって電荷が流れ、「一方の端に到達する時間」と「もう一方の端に到達する時間」の「時間差」によって、「電子が導線のどの位置に衝突するか」すなわち「電子の持つエネルギー」を決めている。信号をできるだけ取りこぼしなく集め、電子が衝突した回数を時間差に対してヒストグラム化すると横軸が電子の運動エネルギー、縦軸がカウント数となり光電子スペクトルが得られる。 そこで、装置の検出系の配線を変え、低ノイズ・高分解能化のため高い時間分解能を持ち、また高感度・高速化のため計数効率が高く不感時間の短いシステムを活用した測定系を構築し、2次元検出器がとらえた「積算される前の信号」を得ることに成功した。これらの信号を時分割回路を介してオシロスコープに出力させることによって、生データを解析し、高感度・高分解能化について検討した。その結果、不感時間が短いため、全体のカウント数が2倍まで向上し、ピーク強度も2倍程度まで向上した。さらに、このシステムではより広範な計測レンジを測定することが可能であり、バックグラウンドをより正しく取り扱うことができるため、より定量的なスペクトルの議論が可能となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、X線光電子分光装置の2次元検出器が取得した100chの信号それぞれをロックイン増幅検知することによって、各チャンネルが取得した信号強度を高感度化し、短時間(時分割)でスペクトルを取得することを目指している。しかし、100chすべてをカバーするロックイン検出器は非常に高額であり、導入することが不可能な状況にある。H28年度では、装置レンタルの方法を模索したが、やはり研究経費の不足により未実施という状況である。H29年度には、100ch分の信号のうち一部のチャンネルのみをカバーしたロックイン検出器を利用して実証試験を実施する。また、2次元検出器が取得する生の信号を取り出すこと自体には成功しており、不感時間が短く、計数効率の高い回路を使用することのみによっても、感度の向上が確認されており、この測定システムを実際の化学反応に適用する。
|
今後の研究の推進方策 |
研究提案書記載の通り、H28年度に構築した測定系を化学反応のその場観察に適用し、X線光電子分光法によって表界面反応進行時における化学組成・酸化状態変化を追跡可能であるということを実証する。具体的には、申請者が独自に開発した電気化学その場XPS測定用セルを用いて、金属イオンの電気化学的還元析出過程をその場観察する。また、H28年度に未達となっているロックイン増幅検知による高感度化の実証について、100chのうち一部のチャンネルのみをカバーしたロックイン検出器を用いて実証実験を行う予定である。
|