X線光電子分光法の2次元検出器が取得した信号を分岐・変換し、検出感度を向上させることによって、計測に要する時間を大幅に短縮し、化学反応に付随した組成・酸化状態変化をその場・時分割で追跡するための測定系構築に関して実証実験を行った。 平成28年度に申請者が保有するX線光電子分光装置の検出系に手を加え、ディレイライン検出器の各チャンネルに入力される信号を直接取り出し、個別に取り扱うことが可能となった。これらの信号を時分割回路を介してオシロスコープに出力・演算させることによって、生データを解析し、高感度・高分解能化への可能性を示した。 これを受けて、平成29年度はこの信号を多チャンネルの外部アンプに出力・増幅することによって、さらなる高感度・高分解能化を目指したが、多チャンネルの外部アンプを取得するための資金が不足したため、化学反応その場観察のための測定系構築を先行させた。 申請者は放射光施設の硬X線を用いて、厚さ15 nmのシリコン薄膜をX線および電子の窓として利用する独自の配置によって、固液界面における光電子分光スペクトルの測定に世界で初めて成功している。本プロジェクトでは、実験室型のX線光電子分光装置を利用するため、輝度およびエネルギーの低さを補う目的で、X線および電子の窓をさらに薄層化し透過率を向上させる必要がある。同時に、液体を真空中で隔離・保持するため、薄膜には十分な耐久性が求められる。窓材として数種類の薄膜を検討し、膜内部に保持した水の光電子検出を試みた結果、薄膜の厚さと強度の関係に加え、光電子の透過率に関して重要な知見が得られた。厚さ8 nmのカーボン薄膜を用いた場合、十分な透過率と強度が両立されることが示された。現在、高感度化された検出系と薄膜透過型の測定系をあわせたその場観察実験を推進中である。
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