研究実績の概要 |
平成28年度は、中心金属として銅(I)を有するジフルオロメチレン錯体の調製と利用について検討を行った。その結果、フェナントロリン配位子を有する臭化銅(I)触媒存在下、α,β-不飽和ケトンから調製されるシリルジエノールエーテルに対してブロモジフルオロ酢酸ナトリウム(CF2源)を作用させると、[4+1]付加環化反応が進行することを見出した。反応系内で生成するブロモジフルオロ酢酸銅(I)から、脱炭酸と臭化物イオンの脱離により銅(I)ジフルオロメチレン錯体が発生し、これがジエノールシリルエーテルと反応してジフルオロアムチル銅(I)となり、共役付加型の閉環が起こると考えている。これにより、β,β-ジフルオロシクロペンタノンのシリルエノールエーテルを高収率で選択性良く合成することができる。ここで鍵中間体である銅(I)ジフルオロメチレン錯体の生成は、第一級アミンによる捕捉でイソシアニド錯体に変換した後、これを質量分析計で観測することにより確認した。 既に、ニッケル(II)触媒存在下でシリルジエノールエーテルに対して2,2-ジフルオロ-2-フルオロスルホニル酢酸トリメチルシリル(CF2源)を作用させると、α,α-ジフルオロシクロペンタノンのシリルエノールエーテルが得られることを報告している。すなわち本年度の研究成果と合わせると、ニッケル(II)あるいは銅(I)の触媒系を選択することにより、フッ素の置換位置が異なる2種類の異性体を同一出発物質から作り分けられることとなり、有機合成化学上の意義は極めて大きい。
|