研究実績の概要 |
電荷移動錯体の電子供与体は通常、π共役化合物が用いられるが、1973年に初めてオリゴシランが電子供与体としてTCNEとの間に電荷移動錯体を生成することが報告された。しかしオリゴシランの電荷移動錯体は生成定数が小さいため、現在まで単離されていない。昨年、ボウル形オリゴシランであるデカシラヘキサヒドロトリキナセンを合成したが、この化合物を合成する途中段階で生成したオリゴシランを用いて、TCNEとの電荷移動錯体の生成定数を増加させる方法を検討した。 オリゴシランとして、1,2-ジメチル-1,1,2,2-テトラフェニルジシラン(1)、メチルトリス(メチルジフェニルシリル)シラン(2)、メチルトリス(1,1,2,3,3-ペンタメチル-1,3-ジフェニル-2-トリシラニル)シラン(3)を用いた。これらの化合物とTCNEをジクロロメタン中で混合すると、400 nm付近と500~700 nmに二つの電荷移動吸収帯が現れた。短波長側の吸収帯の波長は化合物1~3でほぼ同じであるが、長波長側の吸収帯は1<2<3の順に長波長側にシフトする。また電荷移動吸収帯の強度はこの順に強くなることがわかった。これはベンゼン環のπ軌道のうち、ケイ素-ケイ素結合とσ-π共役をしているπ軌道としていないπ軌道の二つがTCNEのLUMOと相互作用しており、σ-π共役をしていないπ軌道はエネルギー準位がほとんど変化しないのに対し、σ-π共役をしているπ軌道のエネルギー準位は1<2<3の順に上昇するためと考えられる。また、電荷移動吸収帯の強度が1<2<3の順に強くなることは電荷移動錯体の生成定数が増加するためと考えられる。以上の結果はケイ素骨格のケイ素原子数が増加し、枝分かれの程度が増すと、生成定数が増加することを示している。これは電荷移動錯体の生成定数を増加させるための新しい方法と考えられる。
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