研究課題/領域番号 |
16K13948
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
村井 利昭 岐阜大学, 工学部, 教授 (70166239)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 含窒素複素環 / イミダゾ(1,5-a)ピリジン / 電子受容性カルベン |
研究実績の概要 |
本研究では、含窒素複素環であるイミダゾールやピリジンを縮環させることでデザインできる従来にはない「含窒素五・六員環縮環化合物」を標的とした。すなわち炭素原子のみで構成されるフラーレンやグラフェンに含まれる五員環、六員環の炭素原子を複数の窒素原子で置換えたアザフラーレンを見据え、その基本ユニットである分子群を創製する。まずはそれらの電子構造・分子軌道の広がりやエネルギーを計算化学によって解明することを端緒とし、ついで①コアユニットの新合成法の開拓、②コアユニットへの芳香環導入法の開発による三次元π系拡張分子の提供、③組込まれた置換基と光さらには電気物性との構造物性相関の解明を行うことで、これまでにはない「含窒素五・六員環縮環化合物の化学」という未踏領域の開拓を目指している。
その中、縮環型含窒素複素環化合物であるイミダゾ[1,5-a]ピリジンから誘導される、含窒素複素環カルベンについて、まず、様々な置換基を持つ誘導体の網羅的な合成と、それらの遷移金属錯体を導くことによりカルベンの電子的性質の評価を行った。またこれらの金属錯体を触媒として用いた水素移動反応、すなわちイソプロピルアルコールを水素源とした、ケトンの還元反応も行い、芳香族ケトン、シクロヘキサノン、カルコンの還元が良好に進行することを明らかにした。また触媒活性に関する置換基効果を検証したところ、イミアゾ[1,5-a]ピリジンの3位芳香環への電子求引性、電子供与性どちらの置換基導入も触媒活性を低下させることもわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記記載のカルベンについて、具体的には、ロジウム-カルボニル錯体を導き、赤外吸収スペクトル測定により置換基の変化によるカルボニル伸縮振動の変化の様子や、NMRスペクトルによりカルベン炭素やカルボニル炭素上の電子密度の変化の様子を系統的に解析し、さらにX線結晶構造解析による実際の分子中の結合長の比較、対応するセレン付加体のNMRやX線結晶構造解析での同様の議論から、このカルベンが、従来の含窒素複素環カルベンにはない高い電子受容性を示す配位子になり得ることを明らかにした。さらに、分子軌道計算による分子軌道変化を考察した結果、それらカルベンは縮環型構造に由来する分子軌道の特徴から、従来の含窒素複素環カルベンにはない新たな受容性軌道を獲得することを見つけた。この受容性軌道は、カルベン炭素上だけでなく、縮環したピリジン環上にも大きく広がっているため、電子を受け入れる際に大きな安定化効果が期待できるものである。得られた錯体の特徴を基に、電子受容性の配位子が効果的である触媒反応として、カルボニル化合物の水素移動型還元とフェニルアセチレンの重合反応を取り上げ、それぞれの触媒活性を精査した。結果として、それぞれの反応において、ここで誘導したカルベン錯体は、これまで報告されてきた例と比較し、格段に高い触媒活性を示すことを明らかにできていることから、概ね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度の成果をもとに、イミダゾ[1,5-a]ピリジン骨格に様々な置換基を導入することで、縮環型含窒素五、六員環化合物群を拡大させる計画である。たとえば強い電子求引性置換基の導入は、電子受容性がさらに向上したカルベンやその金属錯体を導くことを可能にする。また電子受容性と電子供与性置換基を適切な位置に組込むことで、含窒素縮環系全般への電子の非局在化による、長波長吸収や発光を達成できる可能性も高く、そのための置換基の組合せを探索する。
|