研究実績の概要 |
有機蛍光色素を用いたより精緻で高度な非侵襲バイオイメージングの実現は,生物学分野の基礎研究の発展だけでなく,先端的な医療や診断システムの開発にもつながる.この発展の障壁の一つとなってきたのが有機分子の安定性の問題である.例えば,超解像STEDイメージングは高い空間分解能を可能にしたが,強いレーザーの照射を必要とするために,有機蛍光色素の褪色が激しく,繰り返し測定が困難など,実践的応用の観点で本来の有用性が十分に引き出されていないのが現状である.そこで本研究では,本質的に難解なこの問題への挑戦として,耐光性に優れたラダー型有機リンπ電子系色素の開発に取り組み,主に以下の2つの成果を得た. 1)我々はすでに,電子受容性ホスホールP-オキシド骨格に電子供与性トリフェニルアミン部位を導入したドナー・アクセプター型分子C-Naphoxが,格段に優れた耐光性をもつことを報告している.この耐光性発現の起源を探るべく,架橋部位に一連の典型元素 (CMe2, SiPh2, SIMe2) を導入した誘導体の合成を行い,構造と耐光性の相関を調べた結果,ケイ素架橋部位でもかさ高い置換基さえ導入すれば,十分な耐光性が得られることを明らかにした. 2)上述のC-Naphoxは抜群の耐光性をもつものの,蛍光プローブとして応用するにはまだいくつか課題があった.そこでその課題を克服するべく新たなラダー型ホスホールπ電子系を合成し,それが,優れた水溶性や,環境の極性に依存せずに水中でも強い発光を示すこと,抗体修飾が可能な官能基をもつことなど,必要な条件をすべて満たすことを示した.実際,この分子を修飾した抗体を用いることにより,3次元STEDイメージングやマルチSTEDイメージングを達成し,その実践的有用性を示した.
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