平成29年度の研究では、昨年度に発生を確認していたカチオン性アルミニウムポルフィリン錯体を用いた分子変換を検討した。具体的には、カチオン性アルミニウムポルフィリン錯体に対し、種々のカルボニル化合物と求核剤(有機ケイ素化合物など)を作用させ、カルボニル化合物への求核剤の付加を検討した。カチオン性錯体とカルボニル化合物の錯形成が起こっていることをNMR、UV/vis、およびIRスペクトルで確認したが、引き続く求核剤との反応は確認できず、錯体によるカルボニル基の活性化が不十分であることが示唆された。また、カチオン性錯体を種々のルイス塩基と錯形成させ、それらの単離構造決定を検討したが、良好な単結晶が得られず構造決定には至っていない。 本研究では、含アルミニウムシクロペンタジエン(アルモール)の遷移金属錯体の合成と触媒反応への利用を検討した。目的とするアルモール金属錯体の合成と構造決定には成功したものの、錯体の安定性が低く、触媒反応の途中で錯体の分解が起こってしまうことが分かった。今後の展開としては、アルモール骨格に遷移金属との結合を補助する配位部位を追加することで、アルモール金属錯体の安定性の向上をはかる必要がある。具体的には、筆者が以前に報告したアルミニウム上にハロゲン置換基を持つアルモール誘導体を原料とし、アルミニウム原子上での求核置換によって、アルミニウム上に配位可能な官能基を導入することが挙げられる。 また、茨城大学に異動後は、安定なアルミニウム錯体としてアルミニウムポルフィリン錯体を用いた触媒反応を検討した。新規なカチオン性アルミニウムポルフィリン錯体の合成に成功し、種々のルイス塩基との錯形成が可能であることを見出した。カルボニル化合物の活性化への利用を検討したが、目的とした分子変換反応には成功しておらず、ポルフィリンの修飾などによる反応性の制御が必要である。
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