有機化学において炭素ラジカルは極めて重要な反応種であり,膨大な基礎,応用研究がなされている.これに比べて,その同族種であるケイ素ラジカルの基礎研究および合成化学的な応用はごく限られていた.しかしながら,ケイ素ラジカルには炭素ラジカルとは大きく異なる特徴と,それに基づく応用展開が期待される.そこで本研究では,キラルケイ素ラジカルの立体化学挙動(立体化学的安定性)と反応性について精査してその基礎学理を探求するとともに,それを用いた結合生成反応を開発し,多様な分子骨格を有するキラルケイ素分子の創製を目指して種々検討した.本年度においてはまず,昨年度に引き続き,キラルケイ素ラジカル前駆体の開発について検討した.特に,アキラルなシラシクロペンテンオキシドの不斉非対称化を伴うβ-脱離反応によるシラシクロペンテノール誘導体の不斉合成とその変換について,また,キラルなジアルコキシシランの立体特異的求核置換反応,について系統的な検討を行った.その結果,さまざまなシラシクロペンテノール誘導体を高エナンチオ選択的(最高> 95% ee)に得ることに成功するとともに,辻-Trost反応や光延反応等によってシラシクロペンテノールの官能基を高立体選択的に変換し,多様な誘導体を高立体選択的に得ることに成功した.また,キラルなジアルコキシシランに適切な有機金属反応剤を作用させることで多様なカルボアニオンによる求核置換反応が立体特異的に高収率で進行することを明らかにした.本年度においてはまた,上述の手法で得られたキラルケイ素分子からキラルキラルヒドロシランを調製し,それから生じるキラルシリルラジカルが立体特異的に反応することを明らかにした.
|