研究課題/領域番号 |
16K13958
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福村 知昭 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授 (90333880)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | エピタキシャル / 強相関電子系 / 磁性 / 二酸化ルテニウム |
研究実績の概要 |
パルスレーザー堆積法を用いて、様々な単結晶基板上にRuO2薄膜の作製を行った結果、CaF2基板上に高圧相であるPdF2型RuO2多結晶薄膜を得ることができた。気相合成により高圧相が得られたことになる。しかし、作製条件のウィンドウが非常に狭く、試料作製の再現性に難があった。そこで、バッファー層として有用と考えられるPdF2型RuO2と格子整合性の高いCaOのエピタキシャル薄膜の作製を行った結果、高い結晶性をもつCaO薄膜を得ることができた。今後、CaOバッファー層を用いてPdF2型RuO2薄膜の作製を行う予定である。 一方、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板上にルチル型RuO2エピタキシャル(100)薄膜を作製することができた。原子間力顕微鏡による薄膜の表面観察から、薄膜は島状成長をしていることがわかった。作製した薄膜の300 Kにおける抵抗率は、バルク単結晶と同じオーダーの80 μΩcmであり、高い電気伝導性を示す。抵抗率の温度依存性は、バルク単結晶と同様に改良型ブロッホ-グリューナイゼンモデルでよくフィッティングでき、電子フォノン相互作用の寄与が支配的であることがわかった。格子定数と電気伝導の膜厚依存性を精密に調べるために膜厚傾斜をつけた薄膜を作製し、格子定数と抵抗率の温度依存性を調べた。その結果、膜厚を減少させると、a軸長が減少し、抵抗率の温度依存性が金属的な挙動から絶縁体的な挙動に変化した。低温領域の電気伝導率は温度の対数に比例していることから、薄膜の電気伝導に二次元的な局在が生じていると考えられる。RuO2薄膜の金属絶縁体転移はディスオーダーの多い試料で最近報告されたが、今回は結晶性の高いエピタキシャル薄膜において観測されたことになる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パルスレーザー堆積法により、RuO2エピタキシャル薄膜を作製した結果、高圧相であるPdF2型RuO2多結晶薄膜を得たが、作製条件の最適化が困難であった。そこで、格子整合性の高いCaOをバッファー層として用いるために、CaOの薄膜成長を行い、高品質薄膜を得ることができた。 一方で、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)(111)基板上に薄膜を作製すると、トリプルドメイン構造をもつルチル型RuO2 (100)エピタキシャル薄膜が得られた。今回得られた薄膜は300 Kにおいて80 μΩcmとバルク単結晶と同じオーダーの高い電気伝導性を示した。また、膜厚を傾斜させた薄膜を作製して、電気伝導の膜厚依存性を精密に調べた。300 Kにおける抵抗値は膜厚が20 nm以下になると急激に増加し、膜厚が8 nmの薄膜では一桁以上高い抵抗率が見られた。抵抗率の温度依存性は、膜厚が厚い場合は降温とともに抵抗率が減少する金属的な温度依存性を示したが、膜厚が10 nmを切ると降温とともに抵抗率が増大する絶縁体的な温度依存性を示した。膜厚が厚い金属的な試料では、抵抗率の温度依存性は、改良型ブロッホ-グリューナイゼンモデルによく一致し、バルク単結晶と同様に、電子フォノン相互作用が電気伝導を支配していると考えられる。一方、膜厚の薄い試料では、低温領域の電気伝導率が温度の対数に比例することから、二次元的な局在が発現している可能性がある。RuO2薄膜の金属絶縁体転移はディスオーダーが多い試料で観測されていたが[M. S. Osofsky et al., Sci. Rep. 6, 21836 (2016)]、今回は結晶性の高いエピタキシャル薄膜での観測になる。 本研究を担当する大学院生の入れ替わりのために研究にリセットがかかってしまったが、これらの結果をまとめあげて成果発表へとつなげる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
高品質CaO薄膜の作製が可能になったため、これをバッファー層として用いて、PdF2型RuO2薄膜の作製を行い、作製条件を最適化する。試料作製の再現性を確立し、電気伝導特性を評価し、すでに得られている常圧相RuO2エピタキシャル薄膜の電気伝導性との比較を行う。常圧相では改良型ブロッホ-グリューナイゼンモデルによく合う抵抗率の温度依存性が得られているため、同じモデルによるフィッティングから結晶構造が電子フォノン相互作用に与える影響を調べ、高圧相と常圧相における電気伝導特性の違いを明らかにする。くわえて、同じく白金族酸化物であるIrO2のPdF2型薄膜の作製を検討する。 一方で、常圧相RuO2エピタキシャル薄膜の電気伝導性が人為的に大きく制御できることがわかってきた。そこで、電気伝導性の膜厚依存性に加え、基板の種類依存性についても測定し、試料の次元性や格子歪が電気伝導性に及ぼす影響を調べる。こちらにおいても、改良型ブロッホ-グリューナイゼンモデルによる電子フォノン相互作用の解析を用いる。なお、RuO2では電子フォノン相互作用が電気伝導を支配しているため、これまで報告されていないもののBCS超伝導が発現する可能性がある。そこで、これらの試料について、極低温における電気伝導も調べ、超伝導性の有無を明らかにする。また、パルスレーザー堆積法の利点である高い組成制御性を活かして、5価カチオンのNb, Ta置換による電子ドープや、3価カチオンの希土類元素置換によるホールドープを試み、キャリア濃度が金属絶縁体転移に与える効果を調べる。
|