導電性酸化物RuO2の高圧相の合成をねらって、PLD法によるエピタキシャル薄膜の合成と評価に取り組んだ。様々な単結晶基板と製膜条件を用いて結晶成長の依存性を詳細に調べたところ、CaF2(100)基板上において単相ではないものの、高圧相の成長が確認された。一方、YSZ(111)やAl2O3(0001)基板上で合成を行うと、最安定相であるルチル型構造RuO2のトリプルドメインa軸配向膜が成長した。40nm以下の厚さの薄膜は電子の局在化により絶縁体的な電気伝導挙動を示したが、十分に厚い試料は単結晶に匹敵する低い抵抗率を示した。同時に、結晶歪が膜厚の増加に伴い単調に増加していく傾向が見出された。この結晶歪の起源が島状成長した粒間の相互作用にあると推測し、薄膜の成長温度を変化させることで粒径を制御して歪への影響を調べた。この際、ルチル型RuO2エピタキシャル薄膜の成長プロセスウィンドウが小さく、単純に合成条件を変えることができなかったため、あらかじめ2nm以下の極薄膜をバッファー層として導入する工夫を取り入れた。その結果、成長温度に依存して粒径が変化し、最も粒径が小さくなる温度において4%を超える非常に大きな結晶歪が生じた。これはルチル型RuO2薄膜に印加された結晶歪としては報告されている中で最も大きな値であり、格子非整合基板上の薄膜成長でも大きな結晶歪を印加できる新しい手法を開発したと言える。今回、RuO2ではルチル相の熱力学的な安定性が高く、高圧相の単相合成には至らなかったが、非常に大きな結晶歪を有するRuO2薄膜の作製に初めて成功し、抵抗率も変化することがわかった。以上の結果について論文にまとめる予定である。本研究で見出したこの歪み制御手法を適用すれば、他の物質でも大きな結晶歪がかかった試料の作製、もしくは新しい高圧相の合成につながることが期待できる。
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