研究課題
レオロジーを利用したアキラル分子を構成要素とするキラル空間の構築:溶媒中ブラウン運動に打ち勝つことができる程度の大きさを有する長鎖状分子やオリゴマーをマトリックスとして高速撹拌することによりマトリックス分子を配向させ、その中でマトリックス分子を鋳型として金属イオンと架橋配位子を錯形成することにより、配位結合を駆動力としたキラル空間を有するネットワークを形成することを検討した。配位子としてTPHAP(申請者が独自に開発した相互作用部位として水素結合や配位結合が複数可能でかつπ―π相互作用に有利な広い平面性芳香族配位子)を用い、ヨウ化銅キュバン型錯体を金属コネクター源として、様々なマトリックス分子を共存させてネットワーク化を検討した結果、空隙率が25%の細孔を有する新規細孔性ネットワーク錯体のバルク合成に成功した。この細孔性ネットワーク錯体は、ラダー状のヨウ化銅と2核ヨウ化銅錯体によりTPHAPが3次元状にネットワーク化した興味深い構造を有しており、細孔表面に相互作用部位として機能できるヨウ化物イオンが露出していることをX線構造解析により解明した。しかしながら、本ネットワークは結晶学的対称中心を有する結晶構造であったためアキラルな構造である。そこで,マトリックスや溶媒の条件をさらに検討したところP212121のキラル空間群を示す結晶を得ることに成功し、現在詳細な解析を進めているところである。予備的知見として2 nm程度の大きな細孔を確認している。
1: 当初の計画以上に進展している
アキラルな配位子と金属イオンからレオロジーの効果を利用してキラルな空間を構築することが研究目的である。まず、その検討段階で空隙率が25%の新規細孔性ネットワーク錯体の合成に成功したが、空間群がPmnaという対称心を有するアキラルな構造を有していたため、さらに検討を重ねていった結果、最近キラルな空間群であるP212121のネットワーク錯体の結晶の作製に成功した。これまでTPHAP配位子を用いたネットワーク錯体は対称心を有する結晶であったことから、今回得られたネットワークの構造に興味が持たれる。現在のところ、この結晶は高角まで回折点が観測されないことなどからかなり大きな細孔を有するネットワーク錯体であると予想している。一年目で新規細孔性ネットワーク錯体の合成に成功し、キラルな空間群を示す結晶が得られたことこら当初の計画以上にプロジェクトが進展しているといえる。
キラル空間群を有する結晶は、実験室系の測定では回折斑点が弱く、高角まで観測されなかったため、今後放射光施設を利用して本測定をする必要がある。まず、より大きな結晶に成長できるよう結晶化の条件検討を行い、次に、放射光を利用してネットワーク構造を明確に決定し、レオロジーの効果を検証していく。28年度に予算の繰り上げ申請を行ったため、限られた予算の中でどこまでコントロール実験ができるかが今後の懸案事項である。
消耗品に対して多めに繰上げ申請をしたため、次年度使用額が生じた。
消耗品の購入費として適切に使用する予定である。
河野正規研究室 ホームページhttp://www.chemistry.titech.ac.jp/~kawano/
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