ロタキサンやカテナンなどのインターロック型超分子は、共有結合により連結された分子に比べて柔軟な構造を持ち、酸・塩基や酸化還元、熱などの外部刺激により構造がダイナミックに変化することから、外部刺激応答性分子として利用可能である。これまでの研究により、申請者らは、二分子のポルフィリン金属錯体がフタロシアニン金属錯体をサンドイッチした構造を持つ多重インターロック型分子組織Mを構築した。 本年度は、Mの酸塩基応答性の検討をおこなった。Mは側鎖に4つのアンモニウムイオンを含む。このため、塩基の添加によりアンモニウムを脱プロトン化してアミンへと変換すると、クラウンエーテル環の酸素の非共有電子対とアミンの非共有電子対の反発により、両者が脱会合し、Mの構造が大きく変化すると期待した。 Mは、塩化メチレン溶液中で、ポルフィリンとフタロシアニンが密にスタッキングした「収縮型」構造をとることがわかっている。そこで、Mに対して塩化メチレン溶液中、過剰量の超強力有機塩基であるフォスファゼン塩基を添加したところ、MのUV-VIsスペクトルが大きく変化した。1H-NMR測定および、Mの3核Cu(II)錯体のESRスペクトル測定の結果と併せて総合的に評価した結果、塩基の添加によりMのポルフィリンーフタロシアニン間距離が大きくなる、すなわち、Mが「収縮型」から「伸長型」へと変換されたことがわかった。伸長型のMに対して、トリフルオロ酢酸を添加すると、Mは再び「収縮型」へと変化することも確認した。 この「収縮型」と「伸長型」との間の可逆的な変化は、Mを用いた革新的分子デバイスの動作原理として利用可能である。今後、引き続き、Mを基板へと固定化する手法の開発に取り組み、「分子リフト」等の開発につなげたい。
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