研究課題/領域番号 |
16K13967
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
張 浩徹 中央大学, 理工学部, 教授 (60335198)
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研究分担者 |
松本 剛 中央大学, 理工学部, 助教 (40564109)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 二酸化炭素還元 / 多座配位子 / フェニレンジアミン / Ni錯体 / Fe錯体 / Cu錯体 / 光反応 / カルボキシル化 |
研究実績の概要 |
本研究では、新しい光誘起電子・プロトン移動能を有するNon-Innocent Ligand (NIL)と非貴金属(M)からなる錯体モジュール(M/NIL)及びその集合体型CO2還元触媒を開発することを目的としている。その鍵は、熱力学的に安定なCO2へのMとNILによる協奏的な捕捉と電子・プロトン移動である。そこで平成28年度は、配位元素にP部位を導入した非環状四座配位子(N2P2)、N,N’-bis- (diisopropylphosphinoacetyl)-o-phenylenediamide/amine ((H2)L)を新規に合成し、その配位モード及び得られた錯体の性質について明らかにした。その結果、新規N2P2型配位子を有するNi(II)及びCu(I)錯体が新規に得られ、配位子がソフト/ハードな金属に対してプロトン化/脱プロトン化を介した配位モードの変化を伴うことを見出した。また、[NiII(L)]は配位子上でのプロトン付加反応が進行し、ジアミン型へと変化することが明らかとなった。これらの結果はN2P2配位子が多様な金属に対して錯形成すること、また配位子の電子状態が変化することを示唆しており、触媒としての応用が期待される。 一方、本研究ではo-phenylenediamine (opda) を有するFe錯体 ([FeⅡ(opda)3](ClO4)2)が窒素下において光化学的水素発生反応を示すのに対し、CO2下においてopdaのアミノ基のo-位がカルボキシル化された2,3-ジアミノ安息香酸 (DBA)を生成することを見出した。この結果は、本反応が室温大気圧下で進行する新しいCO2固定化反応であることを示す、芳香環上のC-H結合活性化を伴う光化学的な直接カルボキシル化反応として初の例である(収率93 %、外部量子収率は0.3 %)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新しい光誘起電子・プロトン移動能を有するNon-Innocent Ligand (NIL)と非貴金属(M)からなる錯体モジュール(M/NIL)及びその集合体型CO2還元触媒を開発することを目的としている。本研究では、光等の外場に応答し、配位子と非金属が協奏的に二酸化炭素を還元しうる新触媒の創成を指向している。そのためには、金属と配位子の電子状態が互いに影響を及ぼしあい、電子とプロトンを基質である二酸化炭素に移動しうる配位空間を構築する必要がある。この観点で設計されたN2P2型錯体がNi(II,I)を形成しうること、また配位子上での酸化プロセスを示すことを実証したことは、合目的に研究を行うために重要な知見と考える。更に、Fe-opda錯体を用いた光CO2固定化反応の発見は、これまでに例の無い光CO2固定化反応であり、本系独自の反応である。本反応が触媒的に進行することが可能になれば、新しいC-H活性化法でありかつ熱力学的に安定な二酸化炭素を活性化しうる新しい手法として期待できる。これらの結果からも本研究が提案した計画にそっておおむね順調に進んでいることがわかる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、新しい光誘起電子・プロトン移動能を有するNon-Innocent Ligand (NIL)と非貴金属(M)からなる錯体モジュール(M/NIL)及びその集合体型CO2還元触媒を開発することを目的としている。昨年度の成果を踏まえ、合目的に研究をすべく、以下の研究を展開する予定である。 昨年度得られたN2P2型モジュールから集積体を構築する。M/NILモジュールの非対称構造から、それらを(CH2)n等の架橋部位(B)により連結すれば、環状の非対称空間を形成可能である。本研究では、M/NIL集合体に含まれる複数のM/NILサイトでCO2を協奏的捕捉することで、単一モジュールに比べ動力学的及び熱力学的に有利なCO2の活性化を実現する。集合体は集積化により獲得した高い分極性によりCO2の分極を促し、例えば4つのM/NILモジュールを連結した場合、8e-/8H+のプールとフローが可能となる。これにより新しいCO2還元機構発現と解明を指向し研究を展開する。CO2還元実験には、均一系における光照射実験に加え、P系補助配位子へのアンカー修飾により電極に固定化し電極触媒とする。またシリカ等の無機系材料への担持による不均一系触媒への展開も併せて試みる。またFe-opda錯体を用いたCO2固定化反応に関しては、本年度は、反応機構の解明と共にカルボキシル化反応の位置選択性および基質汎用性の検証を行う予定である。配位子及び錯体設計、合成は松本(分担者)を中心に補助者である大学院生の内城が行い、張は立案及び総括を担当する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に計画した物品費のうち、試料合成に使用する有機溶媒の利用を計画よりも抑えることができたため、28年度に購入する必要がなくなったため。尚、これによる研究計画の変更や遅れは生じていない。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度にも継続的に合成研究を行う計画であり、その際各種有機溶媒を使用する予定であり、これに研究費を使用する計画である。
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