研究実績の概要 |
本研究では、新しい光誘起電子・プロトン移動能を有するNon-Innocent Ligand (NIL)と非貴金属(M)からなる錯体モジュール(M/NIL)及びその集合体型CO2還元触媒を開発することを目的としている。その鍵は、熱力学的に安定なCO2へのMとNILによる協奏的な捕捉と電子・プロトン移動である。本研究ではo-phenylenediamine (opda) を有するFe錯体 ([Fe(opda)3](ClO4)2)が窒素下において光化学的水素発生反応を示すのに対し、CO2下においてopdaのアミノ基のo-位がカルボキシル化された2,3-ジアミノ安息香酸 (DBA)を生成することを見出した。この結果は、本反応が室温大気圧下で進行する新しいCO2固定化反応であることを示す、芳香環上のC-H結合活性化を伴う光化学的な直接カルボキシル化反応として初の例である。尚、opdaのみの検討でもFe錯体と同様の生成物の形成を示唆する吸収を示したが、その吸収強度はFe錯体と比べて低下した事からFe(II)による反応促進効果が確認された。更に、opdaの異性体である、m-phenylenediamine (mpda)及びp-phenylenediamine (ppda)においても紫外光照射後にmpdaでは360 nm、 ppdaでは400 nmに新たな吸収を示し、opdaと同様の光反応の進行により、2,4-及び2,5-ジアミノ安息香酸の生成が示唆された。以上の結果は、oda誘導体及びFe錯体への光照射により水素ラジカルとアミニルラジカル誘導体を生成し続く、カルボキシルラジカルと水素ラジカルの再結合により、DBAを与えると示唆された。以上の結果は光化学的電子/プロトン移動能を有する有機物又は配位子を用いた新たなCO2固定化反応を示し、光を用いた有用化成品合成への応用が期待される。
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