蛍光分子を用いた電界発光デバイスは、原理的にエネルギー効率(電子→光子変換効率)が最大でも25%と低いという課題を有している。これに対しりん光や熱活性化遅延蛍光の利用などの解決法が提案されてきたが、一重項基底状態に基づくこれらとは一線を画す方法として、申請者はラジカル分子の二重項状態に着目した。ラジカルは原理的には100%の効率を実現できる可能性を有している。本研究では、申請者が独自開発した優れた大気・励起状態安定性を誇る発光ラジカルを鍵物質とし、電界発光デバイスの発光源として組み込むことで、デバイスのエネルギー効率の革新的向上、ならびに二重項発光の特長の確立に挑戦する。本年度の研究実績は以下の通りである。 (1)昨年度開発したドナーアクセプター型ラジカルの有機ドナー骨格に電子供与基および電子吸引基を導入した誘導体を合成し、置換基がラジカルの物理特性および電子状態に与える影響を調べた。その結果、輻射速度における置換基の影響は大きくない一方、無輻射失活速度は置換基の種類により大きく変化し、その変化の傾向は置換基の電子供与性あるいは電子吸引性の傾向とは一致しないことを明らかにした。これは、無輻射失活の主因が一つではない可能性を示唆している。 (2)昨年開発したドナーアクセプター型ラジカルを導入した有機ELの作成を試みた。デバイス作製における分子蒸着速度および温度を変化させ、デバイス作製に最適な実験条件を検討した。その結果、EL発光を観測することができた。
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