最近、有機熱電材料が応用面から注目されているが、我々は高い伝導性を示す非TTF系有機伝導体(BTBT)2AsF6が熱電材料としても優れた特性を示すことを明らかにした。本研究ではこれまで熱電材料としてあまり検討されてこなかった低分子系有機伝導体に着目し、熱電性能を上げるための指導原理を探索する。これまでに熱電性能のフィリング制御に対する系統性を調べる目的でβ’-(BEDT-TTF)3(CoCl4)2-x(GaCl4)xの熱電特性について調べ、xの増加に伴ってアニオンGaCl4-がCoCl42-よりも大きいため負の化学圧力効果により伝導度が減少しパワーファクターも減少することを明らかにした。このように伝導性高分子と異なり電荷移動錯体の熱電性能のドーピングレベル依存性はキャリア数だけを考えた単純なモデルとは異なったものになる。また(BTBT)2PF6や(TMTSF)2PF6をp型材料とし、Cu(DMDCNQI)2や(TTMTTP)(I3)5/3をn型材料とした単結晶による熱電素子を作製してその性能を評価した。10 Kの温度差で58 μV、1.4 μAの発電を行うことができ、負荷を変えることによって最大0.4 nW、36 μW/cm2の出力が得られた。出力特性は素子抵抗190 Ωを示唆しており、二端子素子としてのコンタクト抵抗まで含めた熱電素子全体の抵抗が性能を決める重要なファクターである。このため性能向上のためには、物質としてのパワーファクターよりも熱起電力自体が重要である。また、BTBT塩のコンタクト抵抗が高い傾向にあることから、トランジスタと同様電極と伝導体のエネルギーレベルがあまり違わない方がコンタクト抵抗が小さくなることが明らかとなった。
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