研究実績の概要 |
極小さな分子サイズでありながらキラリティの物性を大きく制御する光刺激応答性の新規キラル光分子スイッチを創製することを目的として、1,1’-ビナフチル骨格の2位に5-メチル-ペルフルオロシクロペンテンを、2’位にメチル基またはエチル基を、組み込んだヘキサトリエン構造を持つ二種の化合物を合成した。 それらの化合物のへキサン溶液は、紫外光を照射すると可視域に新たな吸収帯が出現し、可視光を照射すると元のスペクトルに戻り、期待通りヘキサトリエン構造とシクロヘキサジエン構造の間で良好なフォトクロミズムを示すことがわかった。また、生成したシクロヘキサジエン構造は、加熱することでも元のヘキサトリエン構造に戻ることがわかった。熱による戻り反応の温度依存性を調べ、アレニウスプロットより、室温における半減期はメチル置換のもので550時間、エチル置換のもので110時間と見積もられ、生成したシクロヘキサジエン構造は比較的に熱的に安定であることがわかった。 これらの化合物を、キラルカラム装着高速液体クロマトグラフィーを用いて分析したところ、二つのピークが観察され、ビナフチル部位の軸不斉に起因するエナンチオマーの関係にある二種の異性体の分離に成功した。単離した一方の異性体に紫外光を照射すると、光反応初期過程においては、一つのシクロヘキサジエン構造のみが生成し、ジアステレオ特異的に光反応が進行することがわかった。また、生成した一方のシクロヘキサジエン構造を加熱するとらせんを維持した元のヘキサトリエン構造に戻ることがわかった。しかし、可視光を照射すると、らせんを維持した元のヘキサトリエン構造に加えて、らせんが反転したヘキサトリエン構造がメチル置換のもので67%、エチル置換のもので45%の割合で生成することがわかった。つまり、光と熱反応で異なるキラル選択性があることが明らかになった。
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