研究課題/領域番号 |
16K13977
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
阿波賀 邦夫 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (10202772)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子結晶 / K4構造 / 強等方性結晶 / 有機ラジカル / スピンフラストレーション |
研究実績の概要 |
「K4炭素」はsp2炭素がつくる3次元構造の炭素新同素体として、グラフ理論によってその存在が予想されたが、実際の合成は実現されていない。我々はこれまで研究により、3角柱π共役分子 (-)-NDI-Δのラジカルアニオンをsp2炭素1個の代わりとして用いることで、K4構造の結晶化にはじめて成功した。この構造は有機分子結晶として他に例を見ないものであるばかりでなく、そのバンド構造には「ディラックコーン」や「縮重フラットバンド」が予想されるきわめて特異なものだった。本研究では、分子結晶において、ハニカム構造やダイヤモンド構造、K4構造といった炭素同素体を作り出し、この構造と分子の内部自由度から引き出される新奇物性を探求する。 本年度は、(-)-NDI-Δ塩のカウンターカチオンを変えながら丹念にその組成を追ったところ、いずれもA1.5[(-)-NDI-Δ](A= Rb+, N(C4H7)4+, …)なる3:2塩であることが分かった。すなわち、(-)-NDI-Δ一分子の価数は-1.5で、NDI一面(分子の1/3)当たりの電荷が-0.5でり、ひとつの不対電子が分子間のNDI-unit dimer 上に存在するDimer Mott系であることを意味している。「不対電子がつくる格子」を改めて見直すと、三角形が頂点を共有しながら構成される3次元hyper Kagome格子に一致することを突き止めた。この格子は、現在、注目を集めているSpin frustration 格子で、理想的なHeisenberg spin系である有機ラジカル結晶中で見出されたのはこれが初めてである。mK域の極低温までの物性測定を進めたところ、磁気的なオーダーは一切なく、熱容量の温度依存性からSpin liquid状態に特有の大きなγ項を見出し、Spin Liquid状態の形成を結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、有機ラジカルがつくるK4格子の研究としてスターとした。当初は、理論的に予想される金属基底状態と、実験から得られた絶縁性の差に当惑したが、(-)-NDI-Δ1分子当たりの価数を厳密に決めることによって、不対電子から見ると、この格子が3次元のhyper Kagome格子に一致し、スピンフラストレーションのまたとない研究対象であることを見出した。実際、極低温の磁気測定から、Spin liquid状態の生成を結論することができた。3次元hyper Kagome格子に関しては無機系のNa4Ir3O8などが既に報告されているが、最近、その強いスピン-軌道相互作用によるSpin glass状態の形成が報告された。その意味では、有機Heisenberg spinがつくる3次元系のSpin liquid状態はいわば未踏の研究分野で、その量子現象の解明や応用が一気に進むものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
二つの方向性を考えている。一つは、NDI-Δのような立体π共役分子を用いた、有機ラジカル分子結晶によるハニカム格子の形成である。このため、トリプチセン骨格をもつ有機ドナーやアクセプターについて、イオンラジカル塩の形成を目指す。さらに、物性発現のため、電気化学バンドフィリング制御に挑戦する。我々は、LiPc結晶などのナノポーラス構造をもつ系について、電解結晶化させた電極上の試料を、別の電解質溶液に移動してそのまま電解することによって、結晶性を保ったまま電気化学ドープできることを見出している。K4格子やハニカム格子は、固体電気化学の際に必要となるカウンターイオンの出入りに対し、十分な空隙を結晶内に有しており、構造を保った状態でのカイオンのドープ/脱ドープも十分可能であると考えている。
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