青色光受容体タンパク質クリプトクロムの磁気センシングに着目して、微弱磁場をセンシングできる人工システムの構築を目指した。フラビンの1重項励起状態からのフラビン-トリプトファン(Trp)・1重項ラジカルペア形成の過程の実現、最終的な3重項ラジカルペアの長寿命化の実現のため、DNAモデルシステムの構築を進めた。オリゴマー末端のパルミトイル修飾により、脂質ラフト相(厳密には、脂質ラフトモデル膜の秩序液体相)を反応場とするフラビンの蛍光消光、寿命を顕微下で定量的に評価できるシステムを構築し、イメージングが可能な材料システムの探索、磁気センシング機能評価へと繋げる計画とした。パルミトイル修飾したTrp含有ペプチド核酸(PNA)オリゴマーとフラビンを含有する相補的なPNAオリゴマーの2重鎖を用いた場合、脂質ラフトモデル膜の秩序-無秩序液体相界面で破壊現象が起こることを顕微下で観測した(2017年度に論文発表済み)。Trp含有PNAオリゴマーと(フラビンの代わりに)AlexaFluor488(AL488)を含有する相補的なDNAオリゴマーの2重鎖を用いた場合には、上記のような破壊現象は起こらず、秩序液体相中でAL488の蛍光消光、寿命を顕微下で評価できた(2017年度に論文発表済み)。上記AL488をフラビンに置換したDNAオリゴマーを合成したが、このDNA自体の水溶性が低く、PNAと2重鎖形成しにくいことが分かった(2018年度に学会発表済み)。リボフラビンとグルタル酸無水物を出発原料とするフラビン分子の合成により、前述DNAの水溶性の向上、PNAとの2重鎖形成、秩序液体相への分配を達成した(2019年度に学会発表済み)。PNA鎖中Trpによるフラビン蛍光消光の顕微観測、時間分解電子スピン共鳴測定でのラジカルペア由来発光/吸収分極パターンの観測から、モデル系構築に成功したと考えられる。
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