カーボンナノチューブは次世代のフレキシブルエレクトロニクス材料として開発が進められている。自然酸化の影響を受けて通常のカーボンナノチューブはp型であるのに対して、還元ドーピングにより安定なn型化カーボンナノチューブを創成する技術が開発されている。本研究では光反応あるいは化学反応によりカーボンナノチューブを局所的にn型化する技術とそのための学理の構築を進めてきた。特に平成29年度においては引き継きトリアリールメタン骨格分子である水酸化マラカイトグリーンMGOHを利用したn型化を検討した。MGOHとカーボンナノチューブの水溶液中の反応の結果、水溶液中のpHが12程度の場合にカーボンナノチューブのn型化に相当する負のゼーベック係数が観測された。これに伴い導電率が上昇することが見出され、カーボンナノチューブが還元ドーピングされ負のポーラロンが荷電キャリアとして機能することが示唆された。さらに、ロイコマラカイトグリーンMGHを還元ドーパントとして利用する系を検討し、顕著な溶媒依存性を見出した。溶媒がアセトンやメタノールの場合にはほとんどゼーベック係数に変化が見られなかったが、アミド基を含有する分子骨格を有する溶媒中ではゼーベック係数の反転が見出されn型カーボンナノチューブが形成されたことが見出された。また電気伝導率の上昇も見出された。また光電子分光実験の結果、フェルミエネルギーの低下がみられ価電子帯に電子が注入される還元ドーピングが進行したことが明らかになった。この顕著な溶媒依存性から、ヒドリド型還元剤であるMGHが2電子還元剤として機能し、結果的に形成するMG+イオンに加えて、溶媒分子にプロトン付加したイミニウム陽イオンがカーボンナノチューブとのイオン対を形成しているものと説明された。
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