研究課題/領域番号 |
16K13984
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研究機関 | 和歌山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
河地 貴利 和歌山工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (30290779)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ロタキサン / シクロデキストリン / アゾベンゼン / 一方向移動 |
研究実績の概要 |
本研究は,生体細胞内などの水系媒体中におけるドラッグデリバリーシステムや人工酵素として利用が期待される水溶性分子機械の重要機構である「ラチェット機構」の実現を目指している。対象とする超分子系は水溶性ロタキサンを基盤としており,光異性化部位と嵩高い親水性末端構造をスペーサーで繋いだダンベル状分子と,環状分子シクロデキストリン(CD)を機械的にインターロックさせたものである。 平成28年度は,光異性化部を1つ有するα-CDロタキサン分子の合成と光異性化を検討した。アゾベンゼン部の両端にスペーサーのテトラエチレングリコール鎖を結合させ,その一端に親水性末端構造のベンゼン-3,5-ジカルボン酸をHuisgen反応によって結合させてハーフダンベル分子を合成した。これを塩基性α-CD水溶液へ溶解し,疎水性相互作用により擬ロタキサンを形成させた後,Huisgen反応による同様の処理により[2]ロタキサンを得た。この[2]ロタキサンのアゾベンゼン部がtrans配置のとき,α-CD環はアゾベンゼン上に位置していることがNOESYスペクトルにより示された。続いて,360 nm光を照射した結果,120分で光定常状態に達し,cis体比が95%となることを確認した。また,[2]ロタキサンがcis配置へ異性化した後,α-CD環の中心はアゾベンゼンに隣接したスペーサー上に位置していることを確認した。その際,α-CD環の短径側空孔内水素とアゾベンゼンのスペーサー側芳香族水素との間にNOE相互作用が見られることから,α-CD環は長径側へ軸上を一方向に移動したことが判明した。 これらの結果は,アゾベンゼンの光異性化を利用した水溶液中でのロタキサン環成分の一方向移動に関する基礎過程が確認されたことを示しており,異波長で光異性化する構造(例:スチルベン)の組み合わせによって逐次的な一方向運動への拡張が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は次の4項目を計画し,実施した。各項目の達成率に基づき,現在までの進捗状況は計画と比較してやや遅れていると判断した。 1.光異性化部を1つ有するα-CD[2]ロタキサン2種の合成を検討した。光異性化部としてアゾベンゼン部を持つ水溶性α-CD[2]ロタキサンの合成に成功した。この[2]ロタキサンのアゾベンゼン部がtrans配置のとき,α-CD環はアゾベンゼン上に位置していることがNOESYにより示された。一方,スチルベンを持つα-CD[2]ロタキサンは,両末端がアジ基の前駆体まで合成を進めた。(達成率:90%) 2.[2]ロタキサンの光異性化を検討した。trans配置のアゾベンゼン部を持つ水溶性α-CD[2]ロタキサンへ360 nm光を照射した結果,120分で光定常状態に達し,cis体比が95%まで上昇することを確認した。温度効果の検討は未実施である。(達成率:60%) 3.異種のロタキサン混合物の光異性化における選択性と直交性の確認については,スチルベン型の[2]ロタキサン合成が未達成のため実施できていない。(達成率:0%) 4.光異性化に伴うα-CD環の一方向移動を確認した。アゾベンゼン部を持つ水溶性[2]ロタキサンがcis配置へ異性化した後,α-CD環の中心はアゾベンゼンに隣接したスペーサー上に位置していることをNOESYにより確認した。その際,α-CD環の短径側空孔内水素とアゾベンゼンのスペーサー側芳香族水素との間にNOE相互作用が見られることから,α-CD環は長径側へ軸上を一方向に移動したことが判明した。(達成率:50%)
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は次の4項目を実施する予定である。なお,異性化過程や一方向運動に対する温度効果の解析は研究進度によっては割愛する可能性がある。 1.光異性化部としてスチルベンを持つα-CD[2]ロタキサンの合成を完了させる。この[2]ロタキサンのスチルベン部がtrans配置のときのα-CD環の位置をNOESYを用いて解析する。これに特定波長光を照射して異性化させ,光定常状態におけるcis体比を確認する。また,光異性化に伴ってα-CD環が一方向移動する証拠をNOESYにより確認する。 2.光異性化部としてアゾベンゼン部またはスチルベン部のみを持つ水溶性α-CD[2]ロタキサンの混合物溶液へ既定の4波長を順次照射することによって,空間的なエネルギー移動が起きず,光異性化反応に選択性と直交性があることを確認する。 3.軸成分に複合ステーションとしてアゾベンゼンおよびスチルベンを併せ持つα-CD[2]ロタキサンを合成する。ダンベル分子が長軸方向に非対称であるため非対称なCD環との組み合わせにより配置異性体が生じる可能性があるため,この制御方法について検討を行う。なお,上記の単一ステーション化合物と比較して疎水性ステーション数が増加するため,水への溶解度が低下して不溶となる場合は末端基を光度に親水性な構造へ交換する必要がある。 4.アゾベンゼンおよびスチルベンを併せ持つα-CD[2]ロタキサンの水溶液へ既定の4波長を順次照射することにより,CD環の一方向移動(ラチェット運動)を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
目標としていた2種類の水溶性ロタキサンのうち1種の合成が年度内に未達成となったため,その化合物の合成に用いる試薬や光異性化反応に用いるバンドパスフィルター(透過光の波長制御フィルター)の購入を見合わせたことが理由の一つである。また,所期の研究計画よりもやや進捗が遅れているため,成果発表の旅費の使用額が計画を下回ったことも理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は始めに未達成の水溶性ロタキサンの合成を行う計画のため,それに用いる試薬や光異性化反応用のバンドパスフィルターの購入に次年度使用額を充てる。また,計画通りに研究が進展すれば,成果発表の旅費にも使用する予定である。
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