研究課題/領域番号 |
16K13992
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
柴田 哲男 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40293302)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フッ素 / ペプチド / クリック反応 / アミノ酸 / プロリン |
研究実績の概要 |
研究計画に従い,フッ素を含有したアミノ酸およびペプチドの合成を検討した。まず,グリシンにフルオロベンゼンを組み込んだ化合物の合成を行った。しかし,糖鎖にジフルオロメチル鎖を導入する過程が困難であった。そこで標的分子構造を再考した結果,アミノ酸をグリシンではなく,プロリンに置き換えて行うこととした。プロリン鎖はヘリックスIとヘリックスIIの2種の螺旋構造を取ることが知られている。ヘリックスIは1巻きが約1.9オングストロームで1回転当たり約3.3残基,ヘリックスIIは1巻きが約3.8オングストロームで1回転当たり3残基のプロリンで構成され,ヘリックスIはプロリンがより密に詰まった構造であることが知られている。ヘリックス内の水素結合や,プロリン環上の置換基によってヘリックスのプロリンの密度が変化することから,フッ素を導入したポリプロリン鎖では,ゴーシュ効果によりヘリックスの密度が大きく変化することが考えられる。そのため,フッ素の導入具合により,不凍活性調整に大きな変化を及ぼすと考えた。合成は次のように行った。まず,トランスN-Boc-4-ヒドロキシプロリンメチルエステルから2工程でアジド基を導入した。次にBoc基を除去した後,別途合成したフッ素を導入したプロリンと縮合させ2量体を得た。フッ素プロリンはDASTとヒドロキシプロリンの反応から合成した。加水分解によってカルボン酸とした後,再び別途合成したフッ素プロリンメチルエステルと縮合させプロリン3量体を得た。次にプロリン3量体化合物を加水分解しカルボン酸とした後,別途,類似の方法にて合成したプロリン3量体のアミン部位と縮合した。さらに先のカルボン酸3量体によりプロリン鎖を伸長させ,アジド基を持つフッ素化プロリンノナペプチドとした。最後にプロパルギル化したガラクトースをクリック反応により連結させ,目的のペプチドを合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性測定には至っていないものの,目的としていた含フッ素ペプチドの合成を達成することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い,初年度に合成したペプチドを用いて不凍活性の測定・評価を行う。評価は次のように行う。即ち,合成したフッ素化ペプチドをショ糖濃度30%に調整し,温度制御顕微鏡ステージ上で急速凍結する。その後,ステージ上の温度を急速に昇温し,顕微鏡で氷のサイズを観察する。熱ヒステリシス活性の測定も行う。合成したフッ素化糖ペプチドを含有する水溶液を徐々に冷却し,該水溶液の凝固点をモニターすることにより行われる。凍結点,融解点の差を確認する。水分子は氷の核をとらえて拡大していくことが報告されている。氷の結晶の成長過程において,6角形のプレート型の粒子が核となると想定されている。当該設計分子はその氷粒子が巨大化するのを網目構造となって阻止すると予測している。水が凍り始めると多数の結晶が形成されるが,そのうちのいくつかが優先して大きく成長し,周囲にある小さな結晶から水分子を取り上げてしまう。当該分子は小さな氷の結晶の表面に結合し,大きく危険な結晶へと成長するのを妨げると期待する。結晶成長抑制がどの時点で起こるのか合わせて観察していく。 また,初年度の実験のように様々なフッ素化ペプチド誘導体を合成していくが,その際,必要となる適切なフッ素化法やフッ素官能基化法といった基礎反応の開発も合わせて行って行く。トリフルオロメチル基 (-CF3),トリフロン (-SO2CF3),ペンタフルオロスルファニル基 (-SF5) などフルオロ基の中でも極めて電子吸引性の強く,かつ脂溶性も高い官能基の導入法や導入された化合物の合成法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費として計上していた費用と研究調査および成果発表旅費をほとんど使用しなかった。人件費では適切な研究員および研究補助員が見つからなかったため,当該研究室にいるスタッフや学生を代用して研究を進めた。そのため,研究において何ら大きな遅れはなかった。旅費については,特に海外旅費を抑えた。というのも次年度に研究成果発表および情報収集,国際共同研究の可能性が浮上したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
特に初年度に使用しなかった人件費に計上する。また,成果発表や研究に関する共同研究に必要な旅費に使用する。
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