研究課題/領域番号 |
16K13996
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永島 英夫 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (50159076)
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研究分担者 |
田原 淳士 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (50713145)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一電子酸化還元反応 / ラジカル / マンガン、鉄、コバルト / 不斉錯体 / 擬ハロゲン配位子 / トリアザシクロノナン配位子 |
研究実績の概要 |
優れた一電子酸化還元機能を持つ鉄、コバルト、マンガン錯体を開発し、有機ハロゲン化合物の炭素-ハロゲン結合の可逆的切断の反応制御を実施するともに、、有機ハロゲン化合物の動的速度論分割へと展開する。基盤となる仮説は、金属(M)内圏機構による有機ハロゲン化合物(R-X)の活性化、すなわち、M←X-RとM-X + Rラジカルの平衡と速度についてを、ラジカルの反転がおこるが配位圏外に拡散させない制御を、錯体設計により達成するものである。本研究は3段階からなり、A.窒素上に置換基を有する1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)配位子と擬ハロゲン配位子を持つ、2価の鉄、コバルト、マンガンを設計し、その一般的合成法を確立する。次に、B.キラルな擬ハロゲン配位子を導入した不斉錯体を合成する、最後に、C.合成した錯体を用いて、ジアステレオ、および、エナンチオ選択的金属-ハロゲン結合活性化反応を検討する。平成28年度は、これらのうち、項目Aの集中検討をおこない、スルフォネート、カルボキシレート、アルコキシドを擬ハロゲン配位子とする、TACN配位子と擬ハロゲン配位子を持つ、鉄錯体の合成に成功した。錯体は単核構造、または、擬ハロゲン配位子が架橋した複核構造を持ち、配位子の立体的傘高さと擬ハロゲン配位子の架橋しやすさで、構造が異なる。また、コバルト錯体においては、目的錯体の前駆体であるアルコキシド錯体の合成を達成した。次に、Bへの展開をおこない、キラルなカンファースルホネート、ビナフトールを擬ハロゲン配位子とするTACN鉄(Ⅱ)錯体の合成に成功した。並行して、計算科学による構造と反応経路の検討をおこなった。その結果、鉄錯体計算は開殻系でスピンを考慮して計算する必要があるため、一般に適切な計算方法の選択が難しく、計算精度に難がある。現在、TACN鉄(Ⅱ)錯体が高スピンが安定であることを明らかにし、および、内圏機構の遷移状態に関するの計算が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究のマイルストーンとして、上記A、B、Cの3段階で進める計画であるが、とくに鉄を金属に用いて、計画中のAを達成し、Bも一部成功している。いずれもX線結晶構造解析で結晶構造、ESI-MSと常磁性であるためシグナルがブロードになるがNMRを相補的に用いて溶液構造を明らかにしている。コバルトアルコキシドの合成に成功したことにより、TACNコバルト錯体合成への準備が整っており、また、鉄、コバルトと同様な手法により対応するTACNマンガン錯体の合成も可能である。鉄錯体において、キラル錯体を含む錯体合成法の確立に成功しただけでなく、平成29年度において、コバルト、マンガン錯体の合成を実現する糸口と、得られた化合物、とくに、キラル錯体を用いたラジカル制御を検討する基盤を確立している。DFT計算をおこない、錯体構造最適化とスピン状態の解析が終了している。研究遂行途上で、計画の実施項目の順番を入れ替え、錯体設計と合成を集中実施したが、研究全体では概ね予定通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度成果では、錯体合成としては、鉄錯体で予定通りの成果を得ている。最終目的はカンファースルホン酸のTACN鉄錯体でも達成できるが、単核ビナフトールTACN鉄錯体は錯体の対称性が高いためにより好ましい。現在、ビナフトールが架橋する副反応がおこっており、この抑制を図るともに、類似の方法論でコバルト、マンガン錯体の合成法を確立する。一般に難しいとされる開殻計算で、異なるスピン状態を検討する必要があるが、DFT計算においても適切な計算方法が確立しつつある。理論的に構造や反応性の予測ができるように、さらに計算を進める。以上を総合して、実際の有機ハロゲン化合物の動的速度論分割の検討を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本反応で用いる鉄錯体について、当初は鉄源である二核鉄ジメシチル錯体と、配位子である1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナンと、不正配位子である(R)-BINOLを用いて、三成分カップリングによる合成を計画していたが、標的とする単核鉄錯体を得ることができなかった。そこで、鉄錯体と配位子の反応を段階的に検討しながら、単核が得られる合成経路を小規模スケールで検討していたため、予想よりも予算使用を抑えることができ、計画に比べ少額の支出額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度では引き続き錯体合成のための反応条件を検討し、最適な合成経路が見つかり次第、種々の配位子を有する鉄錯体の大規模スケール合成へと展開する。また、合成した鉄錯体を用いた触媒的分子変換反応を検討する予定であり、それらに必要な鉄試薬、有機試薬を購入する。
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