本研究は、優れた一電子酸化還元機能を持つ不斉遷移金属触媒を用いて、有機ハロゲン化合物から、ラジカル種を発生、再結合する際の不斉誘起の可能性に注目し、キラルな有機ハロゲン化合物の効率的合成法の確立を目的としたものである。研究は2段階からなり、第一段階で、キラルなトリアザシクロノナンを配位子とする鉄錯体を中心にした、不斉金属錯体の合成、第二段階で、それを用いた有機ハロゲン化合物の不斉合成を、とくに、ラジカルが発生する速度と平衡を反応が配位圏外に拡散しないように設計することにより達成することを目指した。まず、トリアザシクロノナンを用いる不斉錯体の合成は、キラルなジオールを用いることにより、3つの二価鉄錯体で実現し、コバルト、マンガンへ同じ手法が拡張しうることを示した。次に、反応プローブとして、2級有機ハロゲン化合物の動的速度論分割と、原子移動型ラジカル付加、原子移動型ラジカル重合を選択して、反応開発をおこなった。これらのうち、とくに、スチレンとブロモトリクロロメタンの原子移動型ラジカル付加反応が反応プローブとして有効であることを見出した。上記3種の鉄錯体、次いで、不斉ホスフィン配位子を持つ鉄錯体を用いて当該反応を検討し、とくに、「ラジカルが発生する速度と平衡を反応が配位圏外に拡散しないように設計」を、水溶媒の疎水性効果による達成を図った。鉄触媒系では、反応は進行したが、不斉誘起は観察されなかった一方、一電子酸化還元よりも二電子酸化還元を起こしやすいロジウム・不斉ホスフィン錯体で水中での不斉原子移動型ラジカル付加反応をおこなったところ、良好な不斉収率が得られた。以上から、、水溶媒の疎水性効果によるラジカルが発生する速度と平衡を反応が配位圏外に拡散しないように設計仮説は実証されたが、触媒としては、一電子酸化還元よりも二電子酸化還元を起こしやすい金属のほうが効果的であることを示した。
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