研究実績の概要 |
キラルな化合物には,エナンチオマー間で異なった生理活性を示す場合があり,一方のエナンチオマーのみを選択的に合成する手法,すなわち触媒的な不斉合成反応の開発は,有機化学において極めて重要な課題の一つである。研究代表者は,(R)-ビナフトール由来のキラルリン酸が優れた不斉触媒として機能することを見出している。しかしながら,キラルリン酸を用いた新たな不斉触媒反応を開発するためには,その都度,キラルリン酸の最適な3,3'-位の置換基を明らかにすることが必要であり,数多くの実験を行うことが不可欠である。実際に不斉合成実験を行うことなく,最適な置換基を見出すことができれば,触媒開発が大きく効率化され,より短時間で,優れた不斉触媒反応を開発することが可能となると期待される。研究代表者は,すでに,基質と触媒との1:1混合物の1H NMRを測定することにより,最適な置換基を有する触媒を見出すことができる可能性を見出している。 本研究においては,これまでの研究を発展させ,NMRにより,最適触媒を見出す一般論の確立を目指した。複数のヒドロキ基を有する化合物の非対称アシル化反応に着目し,様々なキラルリン酸を検討し,様々なポリヒドロキシ化合物の非対称的不斉アシル化反応により,対応するアシル化体が良好な収率かつ,高い不斉収率で得られることを見出した。しかしながら,1H NMRと最適触媒との間に明らかな相関関係が存在することを見出すことはできなかった。
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