研究課題/領域番号 |
16K13999
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中根 茂行 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (40354302)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水熱合成 / 遷移金属酸化物 / 物性 / 流通式化学合成 / 新機能性材料探索 |
研究実績の概要 |
初年度はまず、装置の改良として、高圧流体として二酸化炭素を使用する設計の既存のプロトタイプ機を、水溶媒の使用を前提とする本研究計画の目的に合わせる作業をはじめ、本格的に製膜装置の開発実験を行う前の予備実験を行った。最新の知見と研究予算の制約を踏まえ、第一段階の目標では、装置は粉体合成用で設計・調整し、試作実験も水熱合成しやすいTiO2を対象とした。 流通式水熱反応装置でTiO2を試作したところ、非常に興味深い結果が得られた。従来技術の水熱合成で本研究が採用した前駆体を用いてTiO2合成を試みた場合、ルチル型のTiO2が得られる。しかし、今回構築した装置では、アナターゼ型のTiO2が得られた。アナターゼ型のTiO2は、触媒材料として非常に有望であることが知られているが、ルチル型に比べて単一相の合成が難しい。流通式水熱反応装置は、原理的にナノサイズ化や大量合成に適した水熱合成技術であり、作製しづらいアナターゼ型の単一相を本装置で容易に連続的に合成できることを見出した本研究の結果は、非常に有意義である。 また上記の結果は、従来技術の水熱合成では作製・分離・抽出しづらいシングルナノレベルのナノ粒子合成に対して、流通式水熱反応装置が有効に機能することを示唆する結果でもある。この結果は、ナノサイズでのみ存在できる準安定相の創製という視点で興味深い。実際、特殊な合成条件下では、同定が難しい未知の結晶相の存在を確認している。 一方、本研究計画では、製膜対象としてスピネル系の化合物を第一目標に掲げている。そこで、初年度は、最新の知見や評価技術との連携を考量して、製膜対象とする試料組成の選定等を目的とした予備実験的物性研究を行った。その結果、単一相のスピネル化合物試料が、一般的には積層薄膜や層状材料に見られる交換バイアス効果を発現することを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
製膜装置の開発という意味では、予算的な制約を加味して予備実験プロセスを追加したため、申請時の想定とは異なる結果を得ているが、計画通りの結果は得られており、研究そのものは順調に推移していると判断している。むしろ、成果の観点で見ると、水熱合成で得られるアナターゼ型TiO2の大量生産技術を見出したこと、ナノ結晶相が創製された可能性など、連続合成やナノサイズ化を得意とする流通式水熱反応装置の特徴を活かした有望な萌芽的成果を多数得ており、セレンディピティをも期待する挑戦的萌芽研究の趣旨に立てば、予想以上の成果を得ていると見なすこともできる。 また、将来的に製膜対象として期待しているスピネル型酸化物に関する物性研究でも、固相反応ではあるが、従来研究では合成が難しかった鉄系化合物の作製に成功するとともに、この物質内の磁気的フラストレーションを絶妙に制御することで、結晶内に交換結合を誘起できることを見出し、それを実証することにも成功した。この研究成果もセレンディピティではあるが、非常に有意義な知見であり、今後さらに研究を深める価値があると考えている。 以上の理由により進捗状況は概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究では、セレンディピティ的な成果が多く、報告書に記載した内容以外にも萌芽的な実験結果はいくつか得られている。これらの結果のうち、本研究計画に有用となる知見が得られそうなものについては、今後も本研究計画の範疇で継続して研究を行う予定であるが、できれば、他の申請に向けた萌芽的研究成果に位置づけて、適宜、本研究計画とは切り離していこうと思っている。次年度は、初年度に得た知見や準備した物品類を活用して、製膜装置のプロトタイプを完成させるとともに、傾斜材料などの特徴的な試料作製まで研究を進めたいと思っている。 一方で、製膜装置でスピネル化合物を膜化する場合、“どのような組成の試料を、どのような形で膜化することが最も有意義か?”最新の知見で常に考えを見直す必要がある。したがって、製膜装置の開発と並行して、物性研究も深めていきたいと考えている。
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