本年度は、薄膜作製装置を用いて遷移金属酸化物の製膜条件探索を行った。対象物質はスピネル酸化物を中心に研究を進めた。しかし、スピネル酸化物の水熱条件下での生成条件が、装置の連続運用に対する制約と折り合わず、時間的な都合も考慮して、十分に合成可能と考えられる酸化チタンや酸化コバルトを対象とする製膜条件探索に切り替えた。その結果、基板上に上述2種の酸化物を製膜することに成功した。また、製膜時に生じる流体流路の不均一性を利用した傾斜材料化も手応えを見せ、コンビナトリアル研究に活用できる可能性を見出した。これらは、本研究の提案当初に企図していた成果であり、今後さらに研究を深めるべき結果が得られたと考えている。しかし、現時点では検証すべき事項も多く、論文として成果をまとめるために、現在は、データの再現性や制御性の向上を図る作業を続けている。 一方、製膜対象とする物質に対して、最新の知見や評価技術のノウハウを蓄積するために行っている予備実験的物性研究では、スピネル化合物試料の作製条件と磁性との関係を詳しく検証した結果、スピングラス相と思われていた試料中に存在する超常磁性体が生成する理由を見出すことに成功した。この結果は上手く活用すれば、スピネル酸化物中に、ナノサイズの強磁性粒子を分散させる技術に応用できると考えている。これらの結果については、論文化をほぼ終えており、投稿作業を進めている。 本研究では他にも、予備実験過程で遷移金属酸化物の物性に関するセレンディピティと言える結果を得ているが、これらについても適宜研究を継続しており、公表可能な部分については、今年度に参加予定の国際学会で発表する予定である。
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