研究実績の概要 |
本課題研究に先立ち、三脚型トリプチセン(1,8,13-置換トリプチセン)構造を分岐部位として持つ数平均分子量Mn = 約25 kDaのスターポリγバレロラクトン(0,3-PVL)が、1,8,16-置換トリプチセン構造や1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン構造を分岐部位として持つスターポリバレロラクトン(1,2-PVL、TPE-PVL)と比べて、高い複素粘性率(およそ10倍)や耐熱性(5%重量損失温度:Td5の差が約50 °C)を示すという知見を得ていた。初年度の平成28年度ではこの現象をより詳細に検討するために、種々の分子量の0,3-PVL、1,2-PVL、TPE-PVLを合成し物性を比較検討した。分子量を48kDa程度まで上げると、これらスターポリマー間での物性の差はほとんどなくなった。一方、分子量を10kDa程度まで下げると1,2-PVL、TPE-PVLではほとんど物性が同じであったが、0,3-PVLだけは顕著に高い複素粘性率(最大1000倍)と高い耐熱性(Td5の差が約100 °C)を示し、その差は分子量25 kDaの時よりも大きかった。このように、分岐部位の効果は低分子量のスターポリマーでより顕著に発現するようになることを明らかにした。これは低分子量のスターポリマーほど、分岐部位の占める重量分率が上がることに由来すると考えられる。 上記に加え、ポリεカプロラクトン(PCL)、ポリD乳酸(PDLA)を腕ポリマーとして持つ、分子量10k~20kDa程度の0,3-PCL、1,2-PCL、TPE-PCL、0,3-PDLA、1,2-PDLA、TPE-PDLAを合成し、それらの物性を比較したが、これらのポリマー間では有意な物性差は観測されなかった。どのような腕ポリマーを用いた際に分岐部位の効果が顕著に発現するのかについては今後精査する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では平成29年度は、スターブロックコポリマー系へと研究を展開させる予定だったが、平成28年度の検討で、ホモスターポリマー系で、どのような腕ポリマーで分岐部位の効果がより顕著に出るのか、また、三脚型トリプチセン構造を分岐部位として持つスターポリバレロラクトン(0,3-PVL)がどのような構造・コンフォメーションを取り、他のスターポリマーとは異なる物性を発現しているのかに関して、より詳細な検討が必要であると判断した。そのため、平成29年度も引き続き、腕ポリマーの種類の検討と、0,3-PVLの示唆走査熱量計や粉末X線構造解析、偏光顕微鏡観察などによる構造解析を行う予定である。
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