研究課題
平成29年度の実施内容は、側鎖にホスホリルコリン基を含むベタイン型ポリマーのPMPCをマクロ連鎖移動剤として用いて、側鎖にスルホネートイオンを持つアニオン性ポリマー(PAMPS)および、側鎖に4級アンモニウム塩を持つカチオン性ポリマー(PMAPTAC)による反対電荷を持つジブロック共重合体(PMPC-b-PAMPSとPMPAC-b-PMAPTC)を合成した。これらのジブロック共重合体は、PMPCブロックが20量体で、イオン性ブロックの重合度が200量体のとき、水中で電荷を中和するように混合すると、ポリイオンコンプレックス(PIC)ベシクルを形成することを既に見いだしている。しかしこのPICベシクルは、外部刺激応答性が無いために、内包ゲスト分子を放出するためには、塩の添加でカチオンとアニオンの相互作用を弱めるしか方法がなかった。しかし静電相互作用を遮蔽するには、1.5 M以上の塩の添加が必要であり、生体内での使用には不向きであることが問題点だった。本研究では外部刺激として光に応答してPICベシクルを崩壊して、内包ゲスト分子を放出する方法について検討することを目的とした。一つの方法として、光照射により結合が壊れてアニオンを生じる側鎖の利用が考えられる。つまりPICベシクルなどの静電相互作用による会合体は、電荷のバランスが極めて重要である。通常のPICベシクルの場合、電荷をちょうど打消したときにベシクルが形成されるが、電荷バランスがずれるとベシクルは崩壊してしまう。したがって、光照射でアニオンを生じる官能基を用いることで、光照射によりアニオンを増加して、電荷のバランスを崩すことでミセル構造を破壊するということを検討した。
2: おおむね順調に進展している
ホスホベタイン型ポリマーのPMPCとアニオン性のPAMPSおよび、カチオン性のPMAPTACによるジブロック共重合体を可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)型制御ラジカル重合法で合成した。反対電荷のジブロック共重合体の水溶液の電荷を中和するように混合することでポリイオンコンプレックス(PIC)ベシクルを形成することを確認した。また、混合比をずらすとベシクル構造が壊れることも動的光散乱(DLS)測定と透過型電子顕微鏡(TEM)観察で確認した。これらの実験結果により、PIC会合体形成には混合するポリマーの電荷のバランスが極めて重要であることを確認できた。さらに光で開裂する官能基としてo-ニトロベンジルメタクリレートを合成して、重合した。このポリマーの水溶液に紫外光を照射すると、側鎖のo-ニトロベンジル基が脱離して、メタクリル酸を生じることを、可視-紫外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、DLS測定、TEM観察により確認した。このポリマーを用いることで、光の照射時間の変化で自由にアニオン性のカルボキシレートイオンの量を調節できる。したがって、PICベシクルの中にこのo-ニトロベンジルメタクリレートを構成成分として導入しておくと、光照射でアニオンが増えるため、PIC中の電荷バランスが崩れてPICベシクルが崩壊して、内包ゲスト分子を制御放出できるようになると期待される。
まず実験を単純化するために、メタクリル酸とo-ニトロベンジルメタクリレートによるランダム共重合体を精密ラジカル重合法で合成する。このように合成したアニオン性ポリマーと、カチオン性のPMPC-b-PMAPTACの電荷を中和するように混合したときに、PICベシクルを形成するのかを、DLS、静的光散乱(SLS)、NMR、TEM観察などにより調べる。PICベシクルの形成に成功した場合は、その水溶液に紫外光を照射して、側鎖のo-ニトロベンジル基を脱離させて、メタクリレートを生じさせアニオンの数を増加する。これにより電荷のバランスを壊してPICベシクルの構造にどのような変化が観測されるのかを調べる。もし、光照射によりベシクル構造を解離できるようならば、電荷を持たない親水性のゲスト分子をPICベシクル内に取込ませて、光照射による制御放出を行うことが可能かを蛍光法を用いて確認する。さらにPMPCをマクロ連鎖移動剤に用いて、PAMPSとo-ニトロベンジルメタクリレートをランダム共重合することで、側鎖にo-ニトロベンジル基を含むアニオン性ジブロック共重合体を合成する。このアニオン性ジブロック共重合体とカチオン性のPMPC-b-PMAPTACを混合することで、PICベシクルを形成するのかをDLS、SLS、NMR、TEMなどを用いて多角的に調べる。さらにこのPICベシクルに紫外光を照射して、側鎖のo-ニトロベンジル基を解離したときにPICベシクルが崩壊するのかを調べる。
今年度は予想より少ない試薬量で実験を行うことができたため、次年度に使用する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (28件) (うち国際共著 13件、 査読あり 24件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (68件) (うち国際学会 23件、 招待講演 7件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Langmuir
巻: 35 ページ: 1690~1698
10.1021/acs.langmuir.7b03785
Colloid and Polymer Science
巻: 296 ページ: 77~88
10.1007/s00396-017-4217-3
Chem. Lett.
巻: 46 ページ: 271-273
10.1246/cl.161007
International journal of pharmaceutics
巻: 534 ページ: 136-143
10.1016/j.ijpharm.2017.10.023
Polymers
巻: 9 ページ: 710
10.3390/polym9120710
Nano Convergence
巻: 4 ページ: 18
10.1186/s40580-017-0113-2
ACS Applied Materials & Interfaces
巻: 10 ページ: 1039-1049
10.1021/acsami.7b13835
ACS Omega
巻: 2 ページ: 7837-7848
10.1021/acsomega.7b01241
巻: 34 ページ: 933-942
10.1021/acs.langmuir.7b02670
Colloids and Surfaces B: Biointerfaces
巻: 158 ページ: 658-666
10.1016/j.colsurfb.2017.07.042
European Polymer Journal
巻: 94 ページ: 125-135
http://dx.doi.org/10.1016/j.eurpolymj.2017.06.039
巻: 8 ページ: 367
10.3390/polym9080367
Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry
巻: 55 ページ: 2432-2439
10.1002/pola.28557
巻: 46 ページ: 1473-1475
10.1246/cl.170621
The Journal of Physical Chemistry B
巻: 121 ページ: 7318-7326
10.1021/acs.jpcb.7b05248
巻: 33 ページ: 5236-5244
10.1021/acs.langmuir.7b00500
巻: 46 ページ: 824-827
10.1246/cl.170168
European Journal of Inorganic Chemistry
巻: 2017 ページ: 1328-1332
10.1002/ejic.201601459
Polymer Journal
巻: 49 ページ: 457-463
10.1038/pj.2017.4
巻: 9 ページ: 49
10.3390/polym9020049
Engineering of Biomaterials
巻: 20 ページ: 73
Soft matter
巻: 13 ページ: 7562-7570
10.1039/C7SM01625E
高分子論文集
巻: 74 ページ: 182-187
http://doi.org/10.1295/koron.2016-0061
Soft Matter
巻: 13 ページ: 1583-1593
10.1039/c6sm02529c
バイオマテリアル
巻: 35 ページ: 2
内藤記念科学振興財団 時報
巻: 101 ページ: 1
LSアドバンス
巻: 16 ページ: 2-10
工業材料
巻: 7月号 ページ: 6
http://www.eng.u-hyogo.ac.jp/msc/yusa/